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フィクション, 思い出

先祖への想い 幻想

先祖への想い 幻想

日本中が熱風にうなされた夏の終わり、ようやくその魔物から解き放されて人々の顔に少しだけ笑顔が戻った。

コロナに翻弄されコロナに明け暮れた日本列島にあきらめの想いだけが残った。

「行きたいけれどコロナが心配で ?」

「呼びたいのだけど、周囲がうるさくてごめんね !」

恒例のお盆のお墓参りを果たせなかった秋のお彼岸最終日に家族3人で故郷のお墓参りに帰った、田舎で唯一生存の姉を見舞って肩の荷を下ろしたところである。

1人 (1匹) 留守番をしたCCを労わるためにいつもの散歩道の土手へ連れて行った、橋のたもとにある龍神様辺りに来ると赤とんぼが数十匹乱舞して出迎えてくれた。

私は、その一団の中へ入って大きな声で話しかけた、ご先祖様に向かって語り掛けたのである、不思議な現象がこれから起きる。

赤とんぼが、寄っては離れ、又離れては寄る、まるで私の言葉が分かるように嬉々として舞い踊る、

「ありがとう !」

クライマックスがその後に来る・・・

龍神様の大きな樹木の中程の位置に、にわかに白いスモーグが湧き出てカ-テン状に囲まれた、高さ180cm 間口半間の入り口が口を開けていた。

次の瞬間、小さな人たちが何か話ながら手に手を取って空間から坂道を下るように降りて来た、私の身体が硬直しているのが分かった、まったく思考停止の状態である。

故郷の秋のお彼岸、みかん専業農家の村は秋のお彼岸には新盆の家以外はお墓参りをしない、だから墓地は閑静な佇まいを見せていた。

その人たちは私の先祖であることが分かった、「ありがとう、来てくれてありがとう!」

「Y よ! ありがとう、よく来てくれたね、ありがとう !」

お袋の声がする、ばあばの声がする、小さな人たちは私とCCを懐かしそうに見ていた、その横に、忘れられない犬のスコッチとマキも並んでいた。

思考停止とはいえ、私の両の眼から涙があふれて止まらない、逢いたい、逢いたかった人たちと愛犬である。

声にならない嗚咽が漏れた、それはほんの数分の出来事、知らぬ間に赤とんぼの姿は掻き消えていた。

小さな人たちは坂道を上がり始めて白いスモッグの入り口に向かった、「パン!」小さな金属音が鳴って入り口がすうっと消えた。

ガクン! 私の身体に衝撃が走った、犬のCCが我が家に向かって動いたのである、

数分の出来事のようだったが、本当はほんの一瞬だったのかもしれない、私は現実と幻想の境に立っていた。

幼少に戯れた故郷、「家族の絆を忘れないで、がんばれ !」 赤トンボの実像、あの世とこの世をつなぐ幻想。

信仰心があればご先祖様は必ずあなたの心に語り掛ける。

そして、背後からそっと見守って下さる、日本の国に誇りを、国を大切にするんだよ   !?

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