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思い出

春3月、 プラットホーム

春3月、プラットホーム

遠くで汽笛が鳴っている、蜜柑畑をぬって4両編成のディーゼル機関車が滑り込んできた、小さな駅舎の狭いプラットホーム、女の肩が揺れた。

ほのかにミカンの匂いが臭って来る、今港に上がった新鮮な魚介類がおばちゃん達の手元に抱えられていた。

遠い昭和の御世が遙か彼方へ消えようと、あの日の情景がなくなる事はない、60年という気の遠くなる春3月、普通の人々の記憶からは忘れ去られていった。

お元気ですか  ?

お変わり有りませんか   ?

風雪を忍ばせた顔のシワが老人の頬に刻まれて、ふっとため息を吐いた口元が震えた。

「随分、年を食ったもんだ   !」身近な視野から一人二人と友が去って行く、黄昏とは自然の力で友情が消えてゆく事、忘れ去られる事。

人間の普遍の生業、避けられぬ運命、しかし、自覚できる者は未だ幸せである、心構えができるから   !

友から美味しそうな品物が届いた、ミカンを送った謝礼の品だった、そのお礼を言う私の耳に友の言葉が切ない  ?

「今まで、して貰ったことがないもんね・・・」普段当たり前のようにお中元、お歳暮をやり取りする私達に、その言葉はなかった、学校を卒業して人情紙風船の都会で頑張って来た友である、人の情けとは遠い生活にいた証拠だろう。

私は思わず胸が熱くなった、そうなんだ、社会とは厳しいもの、都会の孤独、彼においても大変な苦労をしたんだ  !

中学までの学友、そんな彼の在りし日を思い出して私は感動の念を覚えた、私には有り余るほどの友人知人が出来た、一人一人との思い出を辿るとテレビのシナリオが数千本出来上がる程のドラマがある、有難いと伝えることすら忘れてしまう出会いであった。

「今度ゆっくり会おうな!」その友は病から希望に向かって歩いている、元気の気を送る私も彼に劣らず老いを迎えている。

春3月

小さな駅舎の狭いプラットホーム、女の幻が微笑んでいた  !都会の喧騒の中に今まで通り真面目に律儀に生きる人がいる。

「きっと、良いことあるよ !お天道様が見守っているから!」

いつの世も、駅のプラットホームは、優しく微笑んで私達を見守っている           !?

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