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雑談

想い遙かに  モンブラン  時空を超えて

「今、モンブランに登っているよ、さすが寒い、だが、綺麗だ!」
従兄の T兄から、突然の電話がかかって来た、
「お前に、見せてやりたいなァ!」 T兄の声が弾んでいた。

次男の息子がフランスと日本との間を交互に行き来する商社マン、
親父にモンブラン欧州を見せてやりたい、それが実現したのである。

地元では名の通った事業家の長男に生まれ、伯父の死去に伴い急遽
後を継いだ、従兄の絶頂と奈落への始まりだった。

私が水商売を始めるに当たり、銀行に顔の効く従兄の後押しは心強
かった、地元の様々な有志を紹介してくれたのも従兄で有る。

家の農業の手伝いをしていた私を実社会へ導いてくれた恩人でもある。
空手に没頭していた私は融通のきかない硬派、面白みのない男だった、

初めてお茶屋に連れて行ってくれたのも従兄、座敷の味わいを教えて
くれた。

そのせいか? 今に至るもバー、クラブの類いより、和室の座敷が好き
なのは、そのせいだと思っている。

日本の男だったら、それで良いのだ ! 私は今でも頑なに思っている。

従兄には、同じ出身県を郷土に持つ会社員に嫁がせた長女、外資系勤務
の長男、そしてモンブランに招待してくれた大手総合商社勤務の次男の
三人の子供がいた。

事業の倒産という艱難辛苦を味わった従兄だったが、後年はその苦労を
バネにして這い上がった子供達に恵まれて一生を終えた。

三月、春のお彼岸に私は故郷のお墓参りに帰った、本家の墓地には
従兄が地獄の底まで添い遂げた最愛の妻と一緒に眠りに着いている。

お墓参りの私は、いつもお墓の主に声を出して語りかける・・・
多い従兄弟、従姉妹の中でも、最も心を許した人だった、
世間知らずの男を、社会へ引っ張り出してくれた恩人でもある。

「今、モンブランに登っているよ、・・・・・」

その従兄は、墓参りに帰った私への想いを、その嬉しさを夢の中に
追いかけて伝えてくれたので有る。

「 S よ! ありがとう !?」

「 T 兄ちゃん! それじゃ! 今度モンブランに連れてってよ ?」

毎朝恒例のお勤め、仏壇のご先祖様へのご挨拶に、私は語りかけた。
想いは時空を超えて行き交う、私の頑なな信念で有る。

ご先祖を敬いそして安らかを願う、日本人としての基本が此処にある。
合掌

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