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雑談

片山町の夕日  何処の空の下

「雇ってくれませんか?」 春先の喫茶店の午後のこと。

忙しい時間が過ぎて客足の遠のいた頃、喫茶店の店内は
気だるさの漂い始めた時刻だった、

ポッチャリとした黒目の大きい20歳ぐらいの女の子が
そっと周囲に気を使いながら入って来た。

当時の八幡浜では珍しく目鼻立ちの整った女性で、垢抜け
した綺麗な乙女だった、私は奥のボックス席に招き入れた。

私の店で既に勤めて居るA嬢の友達だと自己紹介してくれた、
都会経験の言動とは裏腹に気だての優しい印象を受けた。

採用することになった、気さくなものいいアッサリとして
客に合わせる話術と性格は、田舎町では珍しかった。

男のお客さんの評判が広まり、午前、午後に関わらず客足が
途切れることはなかった、その後、私の後輩が彼女の魅力に
取り込まれ、悶々とすることになる! 恋煩いである ?

二人は私に気兼ねしながら付き合い始めた、彼女の家庭事情
が持ち上がり、店をやめて町を後にすることになった、

彼女の弟は私を頼って店に顔を出していたが、ある夜のこと
タクシーに乗って自宅近くで下車したが、酔っていた事で
道路脇から足を踏み外して河原に転落して若い命を喪わせた。

父親も彼女たちが幼い頃、九州の炭鉱で仕事中足を踏み外して
転落して死亡した事実を彼女から知らされた、不思議な因縁の
不幸が重なった家族だった。

ふたりの恋も終止符を打つ日が来た、男の甲斐性では彼女の
気持ちを繋ぎとめることは出来なかった !

あれから、幾たびかの月日を数えただろう ?
田舎町で触れ合った女性たち! 私の事業を支えてくれた乙女
たち ! 脇役に甘んじた純情な野郎たち !

そこにお盆月がやって来た、皆んなどこの空の下に居るのやら?
幸せ掴んだかい、良い嫁さん貰ったかい ?

片山町杉の子は、小綺麗なそして地元住民に愛される「理容室」
として、新しい家に建て替えられて模様替えしている。

片山町の夕日は、八幡様の下、市民会館裏通りを、
     赤々とまんべんなく照らし続けていた。 ・・・・・

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