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雑談

男達の挽歌  帰らざる青春の日々  想い出が遠ざかる

男達の挽歌 思い出が遠ざかる
「そうなんだ ? 無理もないよな !」
午後の昼下がり私は友の求めに応じて喫茶店に出向いた。

数年前に亡くなった後輩の家が売りに出された、友の
会社が仲介して近日契約になりそうだと云うのである。

残された妻と娘の二人、こじんまりと近隣に愛された
美容室も閉じることになる。

同郷でK高校一年下に後輩Mは入学して来た、それまで
接点のない後輩だったが資産家の末っ子、何不自由の
ない生活をして来た彼には、高校への自転車通学2時間強
の所要時間はきついものだった。

同級生がいないことも有って、いつも私の後をついて来た、
体の小さな彼は、暑い時には今にも倒れそうに、寒い時は
見るからに寒そうに身体を縮めて悲しい顔をしていた。

私が先に卒業して翌年彼も卒業する、大学生活は東京だった、
彼とは結婚を期に松山へ居住するまでは音信不通だったが、
結婚を機会に松山で住む事になり、私達の友情は復活した。

この空白期間、私の想いもよらぬ人生を送っていた事が判明、
著名な放送局に入社して名の有る音楽関係者との交流は私的
な面に迄及び多義に渡っていた。

私たち若者達の羨望の的、キラ性の如きミュージシャン達との
交友は、地味な彼には考えられなかった驚きだった。

空手道で将来を期待された長男の事故死は、彼の生きる気力を
奪った、彼を勇気付けるために出向いた私に息子の果敢に闘う
組手試合のDVDを開いて見せてくれた。

私が驚く程の上達具合で、感嘆しそして論評する私に寂しげな
表情を見せた、夜毎の酒の量は次第に増えて行った。

それから、数年は頑張ったが次第に不治の病に侵されて息子の
住む天国に向う事になる、死後、自宅におじゃまして焼香する
私に語る妻の言葉は、私の胸をかきむしるものだった。

「パパは、Sさんに逢いたかったと思います !」
帰らざる生還への道、後戻りできぬ我が身の病の終着駅 !
覚悟を決めざるを得ない病院の窓辺に彼は何を思ったであろうか。

彼の病気のことも知らず、亡くなったことさえ知らないまま一年
を経過して他人から後輩の死を知らされた私は、悔んでも悔やみ
切れなかった。

彼の妻の語る後輩の日々は、息子の死を現実と受け入れられない
辛酸に喘いだ男の慟哭とその後の辛い闘病の物語だった。

私は彼の遺影を見上げながら、涙が止めどなく流れ続けた、
「胸をかきむしられる悲しみ」 私をこよなく慕ってくれた後輩!

「Mよ! 許してくれ !」 
涙は、私の胸の内をこれでもかと責め続けた。

彼 Mは、私の最大の理解者にして私の最高の支えでもあった。

私が空手を求めたことを喜んでくれて、自分の子供にも同じ道を
歩ませた。

兄弟のように育ち切磋琢磨した師範の子息は全日本選手権の覇者
優勝者にまで上り詰めた、空手の世界で名を為す名選手である。

友とのお茶会で、ともすれば想い出の向こうにあった後輩M !
カントリ-ウェスタンをこよなく愛した自慢できる友だった。

「そうか! 故郷の家屋敷も処分して、そして住む我が家も売る」
妹達が住む近くのマンションを購入して終の住処とするという。

不動産に携わる、友の報告に
「落ち着いたらお線香あげに伺うよ Tちゃんに宜しく伝えてくれ」

男達の挽歌、帰らざる青春の日々、想い出が遠ざかる ・・・

・・・「切ない!」

合掌。

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