犬のお遍路さん
晩秋の夜の雨は寒さが身に堪える、
午後6時頃、買い物を済ませた私は家路を急いでいた。
樹木の生い茂った公園脇に差し掛かった私の視線に
何か佇むモノが見えた、何だろう ?
車のスピードを緩めて凝視した、三つの個体が雨に
打たれてジッと佇んでいる、コチラ一点を見ていた。
まるで四国八十八箇所を巡礼するお遍路さんのようだ、
茶色の雑種犬が生まれて間がない二匹の仔犬を連れて
並んでいた、冷たい雨に打たれて空腹を訴えていた。
ちょうど食パンを買っていた私は車を止めた、バタン
驚いて母子は左右に逃げる、その時、車が通れば跳ね
られる程の危うさだった。
母犬は少し離れた場所から私を見ていた、
路肩にパンを千切って並べて「仲良くお食べ !」と
声をかけた、
住民に嫌われ常に追われる野犬達は人間から施しを受ける
ことは稀である、今宵も一匹は母親のそばにいたが、もう
一匹の姿は消えたままだった。
それ以来、そこを通る度に場所は変わるが母犬の姿が在る、
たまに仔犬達が付いて歩いている、この母子の関係が一日
でも長く添えれますよう願う私の思いで有る。
時には、石を投げられ、棒で叩かれ、心ない住民に毒餌を
撒かれる、当然犬同士の激しい掟を受ける、場合に依れば
死の洗礼 !
生存には幾多の試練が襲う、せめて僅かな時間でも心ある
人間のぬくもりを与えてやりたい。
私の切ない想いは帰路を遅らせる「何していたの ?」周囲に
不信感をモタらせる私の胸中はあの雨に打たれたお遍路さん
に行き着く、犬達に違いなんかあるものか ?
私の大切な盟友が四国八十八箇所遍路小屋プロジェクトに携
さわっている、この12日、松山で彼の家族と食事会を催す、
お遍路さん、私の人生にこれ程関わる大切なものはない。
人間の悩みの根源、心の病を抱えた人々その想いは様々だが
私が向ける先には犬たちの命の瀬戸際がある、
僅かな施しに恩を忘れない か弱気ものたち 必死に私の車を
追う !
行かないで ! 私もここに居ます !
頂戴 ? 私も何か食べたい !!
涙なしには見られない犬たちの叫びです。
人間社会から戦争の悲惨さは消えない、食欲を凌駕する強欲
に左右されて、人間に か弱気ものたちの 悲哀は届かない、
私の眼差しは、あのお遍路さんに向かう、大丈夫だよ !
けして見捨てないからね !?