思い出

男達の挽歌  青春はかげろう

「ドアホ!」

彼の一喝を受けた者は、一瞬身体が金縛りにあったように硬直した。

怒り金時、身の毛がよだつ鬼の形相、その迫力に遭遇すると普通の人は腰を抜かすほどの慄きを感じる、奴は正にそのような男だった。

「先輩! つれてってよ ?」

無邪気な幼稚園児が女の保母さんに甘えるように駄々をこねた ?

これが同一人物、知らない人は全く理解に苦しむ ?

男同士の修羅の場になると彼の眼は完全に据わって獲物を追う百獣の王ライオンのように豹変した。

研ぎ澄まされた、場合に依れば雑なパンチに見えて、実際は計算された、彼のフック、特にクロスカウンタ-は芸術品だった、左右に肩を揺すって、ウィービング又は自然体のパンチは瞬間相手の顎やテンプルにヒットした!

「アアッ!」と声が出れば良い方、殆どの相手、被害者は無言のうちに膝から崩れ落ちた、一種の脳震盪、頭部の打撃はそれ程でもないが、それがみぞおち、 右わき腹「肝臓(レバー)」へのボディーブローは後から効く。

空手の全日本大会へ数回出場した私の先輩は、映画館で二人連れに絡まれて、映画館を出たばかりに後ろから呼び止められて振り向いたらスト-レトが飛んで来た、その瞬間無意識に前蹴りが相手の水月へ蹴り込まれた。

先輩の師範への報告では、崩れた相手は息をしていなかったそうである、「それは効いているぞ!」師範の声が未だに耳に残っている。その館長先生と先輩は共に亡くなられてこの世にはいない。

元に戻って、その男は、喫茶店の前で相手を伸ばした、倒れた相手の口元に耳を寄せたが息をしていなかった、帰っての報告に私は同じイソロウ仲間のZを現場に向わせた。

「Sさん、いなかったよ !」息を吹き返して何処となく帰ったのだろう  ?

粋がって又は面白半分にちょっかいを出したのであろうが、心と身体にその痛みがズシンと響いたに違いない、彼らのために以降の傍若無人が無くなると思えば貴重な教訓になったと言う事である、そう思えば救われる。

私と同行して町を散策中でも数回目にした男のパンチ !鮮やかなフックが昨日のことのように蘇える・・・

「バシッ!」パンチは、乾いた空気を裂いて相手のテンプルを捉えた、崩れる相手の目は空ろに宙を泳いでいた、青春とは無残にも寸劇を見せてくれる !

晩夏を過ぎて木枯らしが舞うと町に異様な雰囲気が漂う、街角のあちこちで異様なふうたいの男達がたむろしていた。

 

男達の挽歌  ! 男たちの雄たけび、 青春は陽炎  !?

 

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