小さな待合室は、話す人もなく静まり返っていた、
白衣の天使がにこやかに入って来た。
「それではこれから、◯◯◯検査の説明をいたします、
分からない事があれば言ってくださいね」
その部屋のお客さんは全て今日の検査の患者さん、
そう、ここは白亜の病院、それも癌専門のセンター
◯◯がんセンターなのです。
「Sさん、申し訳ありません、7月いっぱいで転勤することに
なりました、」
主治医のK先生が申し訳なさそうに頭を下げた。
「ありがとうございました!!」 私の先生、命の主治医。
内視鏡検査の合間(2Lの水を2時間かけて飲む) K先生の診察を
受けに行っての会話である。
「K先生の出身は何処ですか ?」 医師と患者の関係を考慮
して出来るだけ失礼のないようにしていたが、別れが来た事で
聞いて見た、
「ハイ、高知です。」 てっきり県内だと思っていたので、
いささか驚いた ?
「私の好きな高知県ですか?」 K先生、うれしそうに笑った。
内視鏡検査を担当するふたりの若い先生が、素晴らしかった。
「モニタ-見てみますか?」内視鏡を操作している先生が聞いて
来た、「見せてください!」 これから掛け合い漫才が始まった、
今、内視鏡を奥に向かって入れているところ、シャワのような
水は、先ほど飲んだものだという、
そして・・・
「奥に届きました、これから出口に向かいます、引きますね!」
管で吸い出しています、きれいですよ、」 楽しい問答が続きます、
「ああ!これが手術したところです、きれいですね。」
実際は軽やかなリズムに乗った会話なのである、
もうひとりの先生が合いの手を入れる、とにかく親切で優しい、
異常なしの結果だったが、
ふたりの先生の患者に対する気配りと緊張をほぐそうとする
優しさに敬服した。
検査室を出る時のふたりの笑顔が最高だった、また来たい ?
場違いの変な感想だが、本当にそう思いました。
K先生の転勤を称えるように若い医師の援護は特筆ものだった。
7月、K先生に別れの挨拶と命を頂いた感謝のお礼を伝えたい。
その時、内視鏡検査のふたりの先生の真心を合わせてお伝えしたい。
ちょうど10年間のお付き合いだった、
密度の濃い人生を頂くことができた、感謝以外の何ものでもない。
「惜別の歌」
中央大学 学生歌
小林 旭 舟木一夫 倍賞千恵子 加藤登紀子 フォレスタ-等が
唄っている。
わが部屋で、K先生と奥様のお顔を思い浮かべながら耳を傾けている。
♪ 惜別の歌
原詞 島崎 藤村
作曲 藤江 英輔
遠き別れに 耐えかねて
この高楼(たかどの)に登るかな
悲しむなかれ 我が友よ
旅の衣を ととのえよ
・・・・・