仕事の合間を縫って、あるリハビリ-病院に向った、
混雑する受付で病室を聞きエレベ-タ-で4階に上った、
ひとりの男が不自由な身体を静かにベッドに横たえていた。
看護師さんの手当てが済むのを待って、ベッドの傍に寄った、
そしてベッドに横たわる人の高さに自分の顔を近づけた、
「Sさん!」小さな途切れ途切れの声だが私を認識したことを
知った。
目を細め、小刻みに口元を動かしている、感情の起伏はない、
「電話? 電話?」私は理解できた、奥さんへ電話したいのだ、
私の携帯電話で彼の奥さんへ電話を掛けた、耳元へ近づけて
奥さんの声を聞かせてやった、聴きながらも何か言っている、
その意味は私には理解できた。
居る場所は違うが、彼の会社の支店に居るので迎えに来てやと
言っている、家に帰りたい想いが伝わってくる、無理もない。
私にとってかけがえのない心友、空手道に切磋琢磨した男なのだ!
数限りない空手を志す者達を見てきた私だが、彼ぐらい闘志の
激しい男は見たことがない、知らない。
全日本に出場した黒帯の先輩からまともに蹴りを食らう、その
衝撃は凄い、後ろに吹っ飛ぶ、立ち上がり立ち向かう表情は親の
敵に出会った時の形相、突進するも今度は腹部に突きがもろに入る。
また、ダウン!「押忍!!」何度でも立ち上がって向う、仕舞には
先輩の顔色が青ざめて、「押忍!止め!」である。
学生頃は長距離ランナ-、だから脚力が強かった、蹴りが強かった。
次の相談者の時間が迫ってきたので、「また来るからね・・・」と
伝えて病室を出た、数秒後 そっと入室して彼の表情を判らぬように
眺めた。
悲しそうな 淋しそうな表情で、自分の顔に両腕を交差していた、
見舞う私も切ないが、黙って病室を後にした。
向かう先は、
次の相談者指定の喫茶店、財産問題と、子息の現況の報告だった、
相手には弁護士が付いている、状況によって懇意な弁護士を紹介する
事になった。
子息は、私が見合いを設定するまで行ったが、就職先の問題が生じて
沙汰止めになったことの後日談と日本中が知っている有名なメディア
関連会社への就職決定の知らせだった。
映画監督が夢でシナリオライタ-としても勉強していた男だが、若干
方向は違うものの本人納得の世界へ入ることが出来た、それは近い将来
マスコミ関係方面で名前が出てくる予感を感じさせるものだった。
楽しみを残して臥せておく、何時の日か 私の婚活設定で見合いを予定
している。
終わったはずの多忙の季節、新たな仕事依頼で4月末まで息を抜けない、
飲み会は更に延期せざるを得ない、友の分まで頑張るか !
携帯が鳴った、路肩に止める、新たな仕事の依頼電話だった。(よし!)