言葉が消える
ある男の独り言
馴染みの先輩、Tさんが浮かぬ顔して近寄って来た、目の前に迫る私が分からないようだった。
「先輩! おはようございます浮かぬ顔してどうしたんですか?」その声で私を認識したのか、俯いた顔をあげた。
「おお!Sか!」 だが後の言葉が続かない ?」
何か言いたそうなのだが言葉が出ない、それがT先輩の異変の始まりだった。
季節が夏を過ぎて、やがて初冬に差し掛かった頃先輩の入院が伝えられた、
「施設へ入院されたらしい?」 人情にあつい男の黄昏れだった。
友達の不幸に気を揉み、人肌脱いで男気を出した人情のT兄はこうして仲間の視界から静かに消えていった。
認知症のナセルワザ、相手と出会っても名前が出てこない ?「うちに帰りたい!」 女房始め家族はその代わりように涙した。
私の基礎を作ってくれた恩人、「もう一度で良い 逢いたい!」
故郷は寒空の下「そういえばお墓参りをしていない!」春のお彼岸に手を合わせに帰ろう「先輩! 待っててよ!」
「何を言いたいの?」 女房がもどかしそうに愚痴をこぼす?」 この頃何か変だ ?
話をしていても、なぜか名前が出てこない ? 思い出からその情景が消えて行く、黄昏と夕焼け雲が脳裏をよぎった。
「Sさん、言葉がもつれているよ! 気を付けなきゃあ !」後輩Fが、電話の向こうで気を揉んだ。
「もう少し頑張るか!」Y先生の力を借りて続投の手続きに入る、明日打ち合わせの予定を組む、人並みに黄昏れ近し寒の空。
世の中が騒がしい、新聞テレビも小細工ばかりで読む気なし、何が正義か、もう日本は自力で何事も解決できない、だったら外圧に賭けよう、トランプさんイーロンさん、日本を頼みます。
言葉が消える !?