高原の町は
高原の町は私の祖先の故郷、海岸沿いで育った私がこの高原の町の人々と気性が合うのはDNAの為せるせいであろう。
風景を眺めても土着の住民と触れ合っても何故かピタリと当てはまる、先祖の血が私の心に寄り添うのである。
ここは、幕末・明治と激動のウネリに幾多の先達が命を掛けて疾走した、悪に挑む私の気概はこんな処にある。
訪ねたのは一代で財産を築いた傑物、ある会社の代表者、誰一人として面と向かって文句の言えない怖いお人 !その任を私に頼んだのは他市から居住した若手経営者。
常日頃、亡き親父に代わって私を父と慕ってくれている、過去の事業も私はお手伝いをしてきた、縁の下のはぐれ鳥を由としている。
若い頃は強面たちを使い走りに使った御仁、齢とともにその勢いは影を潜めて、今回私の頼みに気持ち良く応じていただいた。
若い頃から、強面さんの恫喝に接して、まあまあ! で事なきを得てきた経験が生きている、脅し、恐喝には他の人に比べて免疫がある。
「Sは! 変わっているぞ、相手にするな !」と言ったか言わなかったか ?代表者の妹を私は若い頃知っている、純情な女性だった。
彼女が故郷の町でスナック喫茶を経営した時はお祝いに帰ったことがある、昔、本人も私の店にやって来て黙って私を見つめていた。
( 渋い男がいるものだ !) 彼を見ての私の第一印象だった。
その二人が数十年の時を経て相対する、私の眼力は彼の絵も言えぬ笑顔を見逃さなかった。
このポイントが複雑な問題を解く鍵になる、「Sさん! あんた喋りすぎ ? 男は無口が良い !」 そう言って二人は笑い飛ばした。
もしかして命よりも大切な財産問題を彼は私に相談したいと言う、私はここに私情は挟まない、冷徹な商取引を己の欲得にからませない、誠実一路、誠の道へ真一文字。
豪華な応接間は、大型スクリーンのカラオケと不釣合いなピアノがデンと座っていた。
演歌の花道、男歌 ! カラオケ合戦を約束して帰路についた、同行の若夫婦の顔が安堵と可愛い笑顔に変わった。 「良かったね !」 私は心の中で呟いた。
「踏み込んでみよ ! ヤイバの下に極楽あり !」
私の処世術でもある !?