君は誰 あなたは何者
私がまだ20代から30代の頃の話である、私は、ある親しい人の集まりに同席していた。
気心の合う人ばかりで座は弾んでいた、普段無口な男が饒舌に舌を滑らせている、(珍しい事があるものだ ?)そう思い楽しみながら私は座に溶け込んでいた。
ところがどういうわけか、その男の顔が別人に見え始めたのである、親しい間柄の筈なのに彼とは別人に見える、何故だろう? 話をしながら私は不思議な感覚に陥っていた。
その後もおとなしい彼が少し酒が入ると饒舌になる、そのアンバランスが2人の人格者に見えるのだろうか ? それは現在に至るも解けない謎なのである。
彼は私より7歳年下だが数年前に脳梗塞で倒れ、快復の見込めぬ身を故郷から離れた病院で横たえている、ある事情で疎遠になっているのだが、近いうちに見舞いたいと思っている。
意識はあるようだが自己表現が出来ない、数少ない見舞い客に涙を見せるとの事だったがコロナの蔓延で面会が限られるため、孤独な生活に涙誘われる現在である。
子供の頃から口数の少ない男で、どちらかと言えば損な役割の男だったが、生き方の下手な男の部類に入るだろう、病院の都合を聞いて見舞いの判断をしたいと考えている。
若い頃、彼を思い恋心を抱いた乙女がいたが、乙女の突然の死で叶わなかった、人生にもし ? イフが有ったなら、許されるならお似合いの夫婦になっていたと思うだけに残念である。
彼はテレビドラマお花はんの水郷大洲の病院で孤独な身をおいている、別人に見えた男の今を、万感の想いで見舞いたいと思う。
あなたは何者 ?
女性編も有るのだがそれは後に譲りたい、
少しでも快復の見込みに繋がれば有難いことである、物言えぬ彼の心を受け取ってやりたい。
君は誰 ? 本当は誰なのよ !
私を頼りながら、いつも端の方に座っていた男、私がこよなく愛する男である !?