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友情

霊峰金山出石寺 夕日に希望を託して

伊予灘を右手に見て南下する私の視線の先は今日の訪問を示唆するように
霞んで海と空の境さえ曖昧に心の不安を掻きたててならなかった。

玄関を開けると彼の妻が迎えてくれた、予告なしの見舞だったのである。
居間のソファ-で友は目を瞑って薬の所為かうつらうつらしていた。

私にとってかけがえのない友である、
学生時代は全校生を震え上がらせて先生達の眉を曇らせた剛の生徒だった。
ただ、彼が偉かったのは弱い者や下級生に指一本触れなかったことである。

彼は今、病に向き合っている、家族のために愚痴を言わず頑張っている、
その胸の内を知るだけに、私は尚冷静に彼の日々を見守ることにしている。

更に南へ下る街にもうひとりの友が病に倒れた、命の終わりを危惧されて
身内が病院に呼ばれたが奇跡的に彼の様態は良い方向に進み始めた。
期せずしてこの二人は連れ添いの縁で身内になった親戚同士だった。

この3月、私の家から約20分余りのリハビリテ-ション病院へ入院予定に
なったと奥さんからの電話で知らされた、私の日参が始まることになる。

かけがえのない友、苦しい稽古に耐えた者同士、この縁はお天道様からの授け
もの、大切にしなくてはならない。

昨年末には別の友の死を知らされて去り行く命の儚さを実感したばかりである。
「もうすこし頑張ったら良い薬も有るようだから必ず良くなるよ!」

彼は目を瞑ったまま「うん!」 とうなずいた「暖かくなったら同級会しよう!」
薄目を開けて笑みを見せた。

私には確信がある、瀕死の人の意識を取り戻させた不思議な力がある !
過去の諸々の実例で確証を得ているのである、「大丈夫 よくなるよ !?」

彼の家を辞退して、私は縁のある別格本山 金山 出石寺へと車を向わせた。
見慣れて走り慣れた村落を通っての30分、境内は午後の陽光に包まれて穏やかな
時を刻んでいた。

何時もと違い風のない出石寺は線香の煙が緩やかに空に昇る、中型のマイクロバス
が団体さんを運んできた、夫婦連れも数組参拝に見えた、境内がにわかににぎやか
になって来た。

25歳の夏、私は1週間この寺に籠もったその当時高名な和尚さんと職員の萩森さん
に温かく迎えられて当時未舗装の八町坂を素足で駆け巡った、ヒノキの大木を相手に
拳を鍛えた、その後、私の実社会の商売がスタ-ト することになる。

終生忘れられぬ思い出と素晴らしい縁を頂いた山篭りだった。

「念ずれば花ひらく」坂村真民先生の教えは幾多の人々のかけがえのない希望となった。
私は、それを信じて祈り続ける、「友よ かけがえのない友よ、青春を取り戻せ!」と。

鮮やかな夕日が大洲の町にその灯りを照らし続けていた。
真言宗別格本山 霊峰金山出石寺 夕日に希望を託して。

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