あるプロジェクトに携わっている、打ち合わせの為、
会社へ訪問した折のこと、
正に事務所の階段を登ろうとした時、横から声が掛った。
顔なじみの知人だった、
急いでいたので用事が終わり次第訪問する旨伝えて、
2時間後、彼の元を訪ねた。
財産整理に関することだった、彼は昨年の夏癌の手術を
受けていたが、今回転移が見つかって明日検査入院する。
偶然出会ったにしては、何かを感じる再会となった。
彼とは、親同士の時代からの付き合いである、
私と違って一流大学を卒業し就職、そして家業手伝い
苦労知らずの人生を送って来た、現在65才となった。
近頃の医療現場は、癌の宣告が普通に為されるように
なった、彼も全て承知している、だからこそ、妻子へ、
夫、父親として覚悟を決めて臨もうとしているのである。
私は、大事な相談相手となった、彼のこれからを見続ける
ことになる。
淡々と話す彼の表情は、想いを胸に秘めた男の顔だった。
私は、彼の申し出を了解した。
嬉しいことより、辛さを覚悟させられる暦の始まり・・・
話を聞き終わって彼の家を後にした、
玄関を開けると、頬に冷たいものが落ちて来た、
見上げると私をいたわるように雨がふわりと舞っていた。
夏が来る、秋が来てそして冬が、来年の春は ?
私の覚悟の始まりでもある、辛いは禁句、
男の友情を振り返っていた、 あの出会いも夏だったな。
男の覚悟 この世への遺言。