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思い出

ニャン御免よ、今度は天国で逢おうな。

午後の昼下がり雨雲が垂れ下がって辺りが薄暗い、
私はとある場所に車を止めて侘しい風景を見渡して見た。

静かに降る雨が寒さを呼び込むのか思わず身震いした。

もうどのくらい過ぎたであろうか ?
一匹の捨て猫との思い出を呼び覚ましていた。

その場所は村の外れの工場の一角で小さな小屋が建っていた、
西隣に公園の樹木が茂っていてその間に狭いあぜ道が在った。

知り合いのAさんが夜になると小さな袋に猫の餌を入れて置く、
三匹ほどの捨て猫が寄ってきてむさぼるように食べていた。

私も少しづつだが与えるようになった、
一匹の毛のふくよかなきじ猫に目が行くようになった、

顔はいたずらっ子のようだが、顔に似ずおとなしい猫だった、
他の猫の後ろで順番を待つような可愛い子だった。

人間でもそうだが、私は何事にも差し繰られる人が気になる、
控えめな男が不憫になる、だからこの猫が気になりだしたのである。

いつの頃からか、私は「ニャン!」 と呼ぶようになった。
私の車の音を聞き分けるようになり「ニャン!」 そっと呼ぶと
奥からのっそりと出てくる、

「ニャ~ン!」 と身体を寄せて甘えてくれるようになった、
私の手に身体をすり寄せて甘える・・・
ニャ-ンは小さな頃に此処へ捨てられたのだろうとAさんと話した。

ニャンの幸せが暗転する、青い目の洋猫がこのテリトリ-に入って
来てからである、始めはそ知らぬふりで傍に居た洋猫がニャンを襲い
始めたのである。

ニャンの両耳の上側の皮膚が破けて赤い肉が露出するようになった、
私はアロエを塗ってやりAさんは粉の抗生物質を餌に混ぜて与えた。

何度か二匹の遭遇を見た、ニャンが怯えて脱兎のごとく逃げる、
両耳の原因がそれで分かったので有る。

痛々しい耳で私の前に現れる、助けを求めるように、泣きつくように
身体を擦り付ける、私の心はチヂに乱れた。

助けてやれないもどかしさ、餌を与え、出来るだけ食べ終わるまで
居てやりたい、ニャンは敵を恐れるように辺りを見渡しながら食べる、
時によれば途中でその場を離れなければならない。

後ろ髪引かれて後にした・・・

ニャンとの縁は、2年余りで終止符を打つことになった、
寒い雨の日も、こごれる雪の日も、ふたりの物語は続いたが、
有る年の1月24日を最後にニャンの姿は見えなくなった、

翌2月6日、天敵洋猫を2000m下流へ追放した、
どうか出てくれと念じたがニャンは現れない、その3日後洋猫が
戻ってきた、相変わらずニャンの姿は現れなかった。

14日、今度は数十キロ離れた隣の市へ洋猫を移動させた・・・
ところが、この猫はそれでも3ケ月後もとの場所に戻って来た。

ニャンの悲劇が此処に有る、
この執念の猫に出会ったことがニャンにとって悲しい運命となった。

ニャンは二度と私の前に現れることはなかった、

1月24日が最後になった、鉄の門扉越しに美味しそうにご飯を
食べたニャン、

今考えると、あれだけ耳をかじられて赤い肉がただれる程痛められて
もこのテリトリから動こうとしなかったニャン、

その心の内を思うと、 切なくて辛い・・・!?

ずっと以前のAさんとの会話・・・赤い耳を見かねた私が・・・

「山の家で飼ってやりたい」という私の言葉にAさんは答えた、
「Sさん、この子は此処にしか生きることが出来ません、つれて帰っても
家から迷子になってこの子は死にますよ!」・・・ 私は断念した。

ニャンの悲しみを自分のことのように見守るしかなかった。

私が今、ただひとつ念じることは無残な死に方をしていないことを願う
事のみである、
他のオス猫がそうであったように、メス猫を求めて何処かへ行ったのだと
思いたい。

ニャンは知恵遅れの猫だった、さまざまな場面を見てそう思う。
人間の苛められっ子がそうで有るように彼も苛められっ子の宿命から
逃げることが出来なかった。

ニヤンと戯れた短な出会い、その縁を私はかみ締めています、
その場所を通る度に車のスピ-ドを落とす、たまには止まる、
「ニャン! ニャン! 助けてやれなくて御免よ・・・」

ニャンとの思い出を振り返っている。

叶うならもう一度逢いたい、この手で抱きしめてやりたい。

「ニャン御免よ、今度は天国で逢おうな 指きりげんまんだよ。」

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