ガラス窓を開けて網戸だけの我が部屋は朝方になると
寒いと目が覚めるほど夏の終わりを感じさせる。
目覚まし時計のセットより30分早く目が覚めて起床、
調査士とある御宅に伺うことになっている、余裕を
持って家を出たが設計士と調査士は既に着いていた。
打ち合わせに1時間、それが終わると海岸線沿いの
申請地に向かう、防波堤の在る広い広場は樹木の陰で
爽やかな冷風が吹いていた。
持参のアルミボックスからコーラーと缶コーヒーを
取り出して喉に流し込む「旨い!」 幸せのひと時 !
アブラゼミ、ミンミンゼミの大合唱 !
藤沢文学最高峰、蝉しぐれの 文四郎の気分に浸る。
普通の人には、耳をつんざく蝉時雨はウルサイの部類
だろうが田舎の神社下に育った身には子守唄に等しい。
淡い青空に綿雲がのどかに浮かんでいる、緩やかに優雅
に漂っている、日本の置かれた現況から一瞬逃避する。
防波堤の向こうから潮騒と懐かしい香りが鼻にそよぐ?
ひと時のまどろみに、神社の境内を駆ける子供達の姿、
秋祭りの賑わい子供達のハッピー姿が、神輿の掛け声の
中に喜々として聞こえて来た。
日本の童話は緩やかな調べに乗って次のページを開く、
「ご飯ですよ!」 聞き覚えのある声がする、若い頃の
おふくろ、 記憶に残る数少ない母の笑顔だった。
夢への逃避は、健全な精神の維持のためには必要不可欠、
今日は、日曜日なのだ ? 茶目っ気が首をもたげた ?
郡奉行 牧文四郎、 松林の中を馬の手綱を引いて鞭を打つ、
蝋せる程の蝉しぐれが頭上から降って来た。
短い夏の終わり、それ以上の短かさで蝉たちの季節は終る。