心地よい風が真横から吹いて来る、
仕事の混んだ徹夜仕事からどうにか解放されて、
市街地のはずれの河川敷に車を向けた。
広大な一級河川は、対岸の人がかすかに見える、
河川敷の中程に降りて愛犬と戯れている人がいる、
しかし、その表情は窺い知れない。
改修工事の終わった岸辺のコンクリートブロックは
真っ白で眩しく輝いていた。
その場に降りると、上から見ると想像できなかった
草が結構高く密集していた。
用心の為に右手に鎌を持ち左手は脱いだ上着を持つ
足元を見ながら進むが、思いのほか歩きにくい、
水の流れを挟んで北の方からけたたましく犬が吠えた、
何事かと視線を這わせて歩いたのが悪かった ?
「アア!」 何かに足を取られた、身体は既に前に
進んでいる、
葦の間を身体が倒れる、咄嗟の事で判断が鈍った、
歳をとって反射神経が衰えたのか、
それとも手に持つ物が刃物ゆえ自傷を恐れたのか
右手は意識して鎌を握ったまま前方に伸ばした、
これが良かったか悪かったか ?
右足の脛と顔面右頬をもろに底の小石に打ち付けた、
なんたる不覚、なんたる失態。
頭に衝撃が走った・・・
若い頃◯◯の稽古で突きをもろに受けた時の衝撃を
咄嗟に思い出した。
商店街の夜市の帰り道、暴漢に不意打ちを喰らった
時のパンチ ?
それらが一瞬頭をよぎった。
それにしても、何 ?
足を止めた主を眺めた、足元に大き目の蔦が見えた、
これが犯人だった、 (何とも、やれやれ!)
焦るとろくな事は無い、
そんなに急いで何処へ行く ?
しばらくコンクリートブロックの上に腰を下ろして
広い河川敷を眺めた、
遠くでは数名の若者達が動き回っていた。
もし、右手の鎌を離したら、どうなっただろうか ?
倒れた箇所によってはグサリと我が身体に食い込ん
だかもしれない、
それとも離していれば身体を打ち付けずに済んだか?
「認知症の始まりかも知れませんよ ?」
明るく警告を発する…誰かさんの顔が浮かんだ、
明日天気になァァ…れ !
年寄りは年寄りらしく、元気で行きましょうね !?
若い者に手を掛けないのが、円満の秘訣、
何事もなかったかのように名残の陽射しがさした。
「しまった!」 は、締まらないと同じ、
「良かったね、大した事がなくって」
・・・何処からか、優しい声が聞こえて来た、
家に帰ろう、夕餉の仕度出来てるよ・・・ ・・・。