いい奴ほど、早く逝って、悪い奴ほどよく眠る ?
後悔と共に在りし日の彼らを引き戻して見たい・・・
サブを語るには東洋軒の若旦那Sちゃんを語らなきゃならない、
私、サブことF、そしてSちゃんが一番年下だった。
人の痛み、弱い者の悲哀を理解できる男肌が、SことS・Tである、
人情が分かり涙もろく剣道をたしなむ剛の文武両道の男だった。
私の店に何か不審な客が来ると顔を出して「よっさん、どうした!」
と助っ人に来る頼もしい男達だった。
中には、心配げに顔を覗かせるが腕に自慢のない者や男気のない奴は
ただ見るだけ、眺めるだけで何も出来ない客もいる、だから2人の
侠気は際立っていた。
サブに男の職人肌、さっちゃんに、男のイナセと義理人情を教わった
ような ものである、
この2人との交友が以降の私のバックボ-ンになったことは否めない。
そういう2人は私を残してあの世へ旅立ってしまった、返す 返すも
無念で慙愧に耐えない。
生きていれば、今頃「よっさん、あの頃はよう、ああだったね、こう
だったね!」と子供達の成長を横目に盃を交わしたことだろう。
サブの自慢の詩吟とむせび泣くような山追い演歌で、肩を叩いて涙の
ひとつも流したろう !
片山町 おでんの東洋軒 忘れてならないのは恋女房エミちゃんの
存在である、
ある意味自由奔放な旦那気質の彼をうまく操縦できた東おんなだった、
控えめできれいなお嫁さんだった、だから彼は男になったのである。
サブと鈴 一味違った夫婦ぜんざい ! やんちゃなサブを支えて3人
の息子達を育て上げた、山里の田舎の慎ましやかな日本の女だった。
男と云う奴は、どんなに虚勢を張っても知れたもの、良い女房があって
こそ世の中の何たるかを知る、
ふたりより遅れてしまったが、そろそろ旅支度の私である、
三途の川を渡る頃には、大勢の故友人知人に混じって、サブとサチが
一番前で提灯をかざしている様な気がする。
「よっさん!」 「あにさん!」
「お帰りなさい! 遅かったけどよく帰って来たね!」
ふたりの頬には大粒の涙が流れている、
何の ! 一番泣いているのはこの私かもしれない ?
「ついに、ふたりに逢えた ! 酒持って来い! 飲み明かすぞ!?」
閻魔大王が 「沙汰は一晩明かしてから、出してやろう!」
貰い泣きの閻魔大王様を誰も見たことはない。 それなのに・・・ ???