メリー・ジェーン 頬を伝う涙 I よ !
遠い日の青春、明日の日に自信が持てず狭いねぐらでイソロウに甘えた奴は泣いて私の手を握った、殆どの同級生は都会へ夢を追って出て行った、虚無感。
焦燥のうちに奴は頭をかきむしった、悔しいと !両の目からとめどもなく流れる涙が胸を表していた。
港町は掛ける言葉もなく黙って奴を眺めていた、ある晩奴は人知れず姿を消した、朝方そっとアパートに戻って布団に入った、私は黙って知らぬふりを装った。
何かが吹っ切れたように彼の表情が変わった、旅立ちが近いことを私は悟った、その数日後、相思相愛の彼女を伴って私に姿勢を正した。
新たな旅立ちを告げたのである、「お世話になりました!和歌山へ行きます !」大企業への就職が内定した、身の回りは小さなバック1つ。
奴らしい旅立ちだった、その後に来る騒動はドラマ仕立て、事実は小説よりも奇なり、両親の怒りと子を思う親心、その狭間で私は人生の不思議を予感していた、がんばれよ !
手元から大切なものが飛び立つ! その後の虚無感は今度は私の心を濡らすことになる、失って知る友情の大切さよ !
とにかく奴の旅立ち、もうひとりの勇者が友に誘発されて大阪へ向かう、格闘の世界への再挑戦、オーライカムバック、彼女の死に打ち萎れたもうひとりの奴が、故郷を捨てた !
可愛い後輩がみんな巣立っていった、残された私の胸の中を侘しさと言う言葉が渦巻いて沈殿した、大切なものが掌から空に消えた、青空に漂う浮浪雲、寂しい !
数十年の歳月は、お前と俺の合言葉を忘れずに覚えていた、大企業の社員、格闘に身を投じた名伯楽、父の後を追った奴の父子鷹、三者三様の人生は花ざかりを過ぎて夫婦水入らずの境地に立っている。
港町の繁華街、心なし狭くなったような過疎の町の商店街 !肩を組んで真ん中を歩く男達のシルエットが近づいて来る、彼らは昭和の輝きの中で嬉々とはしゃいで弾んでいた。
「Zよ! Sよ! Iよ! 元気かい ! 家庭は幸せかい ?」
メリー・ジェーンの歌が商店街に流れてきた・・・
I の両の目から大粒の涙が頬を伝った、I 青春の縋り歌、
乙女の死に慟哭したIの別れ歌、人生は切なくも愛しい !?