前から約束されていた決まりごと、相続に関する事項である。
余裕を持って家を出たのだが目当ての役所がなくなっている、別の場所へ移転した事を知らなかったのである。
連絡を取って、どうにか定刻に間に合った、関係者の皆さん既にお見えになっていた、ガン病棟で苦楽を共にした同室のAさんの弟さんほか親族の皆さんである、私は証人で臨んだ。
ところが、人生の不思議な縁に感激する事になる、担当する先生が自己紹介する苗字に耳が反応した、高校の3年間、共に学んだ旧友と同じ珍しい性だったのである。
所要時間は30分、私は一足先に辞退する、先生に学友の事を話したところ、「下の名はなんと言うのですか !」との返事 ?
「j と言います !」 先生の顔が思わずほころんだ。
「私の親戚になります」
関係者が立ったまま待っている事に気がついて、慌てて辞退した次第である、歳月の彼方に「◯◯ j」君の顔が浮かんでいる。
寡黙で恥ずかしがり屋、自己主張を抑え周囲に同調する温厚な生徒だった。
高校を出ると県内有数の新興企業に就職して、関西方面で家庭を構えた、子供が誕生したその年、帰郷して仲良しと私の店に寄ってくれた。
それが彼との別れになった、その後、仕事中に自動車事故で短い命を散らしたのである。
彼の妻の姉の主人がある町の町長に就任する、友達の親父さんの飲み仲間、我が店にもよく来て頂いた、そして実力町長として君臨する。
仮に彼が生きていれば、別の人生が拓けていたと思うと運命の皮肉にやるせなさを禁じ得なかった。
どうにか持っていた雨雲からとうとう雨が落ちてきた、親戚の人と邂逅した私にあの世の友が合図を寄越したのかもしれない。
「Sよ! お前は相変わらずしぶといの ! だけど有難う !」
友の涙雨、青春を共有した男同士の契り雨 ☂️ 鬼の目にも涙 !ヒマラヤ杉の校庭が霞んでいるに違いない、
友よ、かけがえのない友よ、 「J・I 」
黄昏に集う人の縁、コロナごときに負けてなるものか ! 友よ !?