小心と大胆
肝の座った男は、心の動揺を表に出さない、
「結果、どうだった ?」
私の問いかけに、ニヤリと笑って答えた。
「経過を見るだけだもの、心配ないよ !」
胃の手術をやったばかり、医者には結構脅された
ようだが、不安感など微塵も顔に出さない。
まず、人生を達観したような男は、手術に臨んだ
時にはもう覚悟を決めているもの、
廃れて久しい武士の作法、死への覚悟と云う奴。
「俺の命 ここまで !」
( だったら綺麗さっぱり主治医に任せよう! )
「後は野となれ山となれ?」
私の場合は、簡単にそうはいかなかったが ?
それでも、2~3日で覚悟を決めた、これが運命 !
癌センターのスタッフが良かった、
お付きの看護師が空手を一緒に習った後輩の姪、
勿論、執刀して貰った主治医は男が惚れる人情肌、
だから、その先生が広島の癌センターへ転勤に
なるまで気長にお付き合い願った。
その人間関係と手術した者同士、相部屋のチーム
ワークが精神の安定に大きく寄与する。
私の部屋の患者さん達は、殆ど重い人達だったが
明るいがん患者さん達だった、人の縁に恵まれた。
病気の性質上運命の別れ道はあった、1番意気投合
した人は、ついに我が家へ帰る事は叶わなかった。
その人の山間の家での葬式に私は参列した、悲しい
見送りだった。
反対に大言壮語の人は一見豪放磊落のように見えるが
案外気の小さな人が多い ?
自己の弱さを言葉を借りて鼓舞している !
そんな場面を良く目にして来たものである ?
試しに、ちょっと意地悪心で試して見れば判る、
その局面になると精神の安定が保てなくなり青ざめる。
「粋がるんじゃねえよ!」
怖いお兄いさんに看破される!「それ見な!言わねぇ~
こった !」
無理に肩肘張る事はない、自然体の中で人が判断して
くれる、強いと褒められる事など何の足しにもならない。
おとなしくて弱い人は、損をする事が有るが、それ以上
得をする事も有る、世の中はよくしたものです。
小心と大胆、同じ人間だもの、
男同士では強くても女房にからっきし弱い男は捨てる程
いる。
あの社長さんに聞いて見な、苦笑いして手を振るよ ?
「山の神の話しなら ゴメンよ! 」
どうやら社長さんの弁慶の泣きどころだったようだね。