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思い出

何処の空の下

その町では見かけない娘だった、
テレビ界のアイドルかと見間違える程の美人だった。

彼女はウエイトレスに応募して来た、
先輩ウエイトレスの可愛い後輩だと分かった。

何点かの、
心構えを伝えて面接を行って採用することにした。

途端に若者を中心に来店の客が増えた、
キツイ冗談でも笑顔で受け答えのできる素直さがあった。

自分の家の事情も無邪気に話してくれる娘だった、
父親を九州の炭鉱事故で亡くしていた、
その話しをする時彼女の大きな目から大粒の涙が落ちた。

母親、弟、妹と4人で母の実家のあるこの町へ帰郷した。
弟Aは19才、陰のある憂いを見せて私に挨拶した、
上目遣いで私を見つめる男だった。

時間が経つ程に、不良グループに仲間入りした、
ある時、店の若い男の常連客のBが、泣きべそをかいて
やって来た、

Aに殴られたことを知った、Aが素知らぬふりをして来店、
私は、やんわりたしなめた、キツくなって来た目を私に
据えて彼は詫びた。

父親を事故で亡くしたトラウマは多感な彼に複雑な感情を
芽生えさせていた、
私に父親と違った肉親に近い感情を寄せ始めていたのである、

その町で些かチンピラに知られていた私に彼はシンパシーを
注ぎ始めていた。
悪さをして、怒って貰いたい、不思議な感情の男だった。

その年の夏・・・
姉が、顔面蒼白で私に泣き崩れた、弟の事故死、

夜、タクシーを拾った弟は、我が家の手前数メートルの所で
タクシーを下りた、
道幅の狭い横に川が在る、少し酔いのめぐった弟はバランスを
崩して転落した。

不幸なことにその年は日照りが続き川に水が流れていなかった、
奇しくも父親と同じく転落死と言う悲劇に見舞われたのである。

それから、しばらくして姉は店をやめた、
傷心をその胸に隠して町を後にした、木枯らしの舞う季節だった。
テレビの歌番組で彼女に似たアイドル歌手の姿を追う私がいた。

その一年後、笑顔の彼女が私の前に姿を現した、
「マスター、私 結婚します !」
悲しみから立ち直り、涙を振り切ったひとりの女がそこに居た。

あれから、40年という歳月が流れた・・・
一度でいい! 孫と歩く彼女を見たい、どんな人生を歩んだので
あろうか。

「マスター !」 笑顔を振りまく乙女だった、哀しみをこらえる
娘だった、

黛ジュンに似た、可愛い娘、
あなたは、何処の空の下 ?   Sマスターは、あなたを忘れません。

何処の空の下” に2件のコメントがあります

  1. お久しぶりですね
    長いようで短い人生
    いろんな人生があるんですね
    杉の子様のブログを拝読させていただき いつも考えさせられます。
    私は、幸せなんだ と感謝です
    寒さもまだまだ厳しいですが、風邪等には気を付けてくださいね
    健康が一番ですね

  2. さざ波さん
    お久しぶりです、
    お元気でしたか、

    いつも気になっておりました、
    再びお会いできて嬉しく思います。

    人生は、人の一生は、不思議ですね、

    私が今、思いますのは、
    苦しみから逃れたらダメ、
    逃げれば、逆に追いかけて来る、

    だから私は、真正面からぶち当たります、
    どうだ、これでどうだとね、

    そうすると、ごめんゴメンと苦しみの使いは
    退散していきます。

    結局、諦めないことですね、
    お天道様は、見ておられます。

    私の仲間が下記のブログに集っています、
    愛媛県の各地の風景が管理人の人柄を滲ませて
    展開しています。

    お互いコメントでの語らいを楽しんでいます、
    覗いて見てください、お声をお掛けください。

    海がある山があるーGooブログ

    再会に感謝です。

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