鷹を追う男 望遠鏡に託して
肉親の死を語ることほど辛い事はない、それも突然おとづれた悲劇だけに尚更である、4人姉妹の中でただ1人生き残った姉の長男の死。
葬儀告別式の受付には甥の同級生達が手際よく黙々と出席者の応対をこなしていた、私はひとりひとりに声をかけて感謝の意を伝えた。
彼ら一人一人の関係者は旧知の人々だったのである、彼らは驚いて、暗い胸の中一瞬だが頬を緩めてくれた。
甥のかけがえのない同級生達、甥の分まで長生きしてくれることを心の中で祈った。
自分のことを見せびらかさない男の矜持を秘めた甥は高校は地元の進学校、クラブはラグビー部、私と同じ小柄な彼は、負けじ魂の強い男に成長した。
ラグビーに打ち込む姿、その練習を見たが他の生徒以上の頑張りでグランドを疾走した、日本対南アフリカ戦、その日本の敗戦に甥の無念を見た思いがした。
ラグビー日本代表、私の甥、T・Y 共によく頑張った、歴史に友人達の記憶に末永く残るに違いない、男達の勲章!私はそのように思い、その健闘を讃えている。
人の批判をしない男、自分の自慢をしない男、だから多彩な趣味特技の類を一切語らなかった、死に際して私達は知った。
その彼が心に秘めた大切な友情を語ってくれたことがある、もう時効だと思うので彼の性格、正義感を讃える意味で披露したいと思う。
彼がまだ若い京都で就職していた頃の話である、ある有名男優と美人女優の秘められた恋の話だった、日本中に知れ渡ったご両人は隠れた逢瀬にも苦労していた、その世話役を任じたのが甥だったのである。
特に甥は男優に可愛がられ、一緒にお茶の席を共にしたこと幾度、その男優は若くして亡くなり、ファンの記憶の中に埋もれる事になる。
美人女優は今も健在でファンに羨望の眼差しで見つめられている。
彼は、一度だけ懐かしむように記憶の底からその秘密を紐解いてくれたのである。
気高い美人女優に甥の記憶があるかどうかは分からない。
甥が可愛がられ尊敬した有名俳優、もしかして鷹の背に乗った甥は、京都撮影所で師匠と涙の再会を果たしているかもしれない。
「Y君! 来るのが早すぎるよ !」 怒られているのではないか、
白い雲間をぬって鷹が青空を滑空する、その先に望遠鏡を構えた男の姿、伊方原発からさざえ岳へ友情のリレー、原発の安全を祈って鳥と人間の協奏曲 !?