霞の彼方へ消えた奴 M !
義務教育を終えて心躍らせる高校生活がそこに来ていた、農業の道へ進む予定の私は開放感に浸っていた。
ところが学校は今までとは思いもつかぬ先輩後輩の規律の砦だった、いかつい先輩達のオンパレード !大変なところに来たと内心恐れをなした。
自転車通学の片道2時間は数校の先輩達の洗礼を受ける恐怖の通学ロード、まだ一年坊主の時はある意味良かったが2年になって言葉の暴力の洗礼を受ける事になる。
直接暴力の洗礼を受けるのは腕に自信のある同級生の役割である、3年になって番長グループを形成するMが一番の被害者になった。
自校他校を含めて理不尽な先輩には頭を下げない生き様が彼らの標的にされた、後輩には慕われる花の番長直前の2年坊主の勇姿だった。
私の高校生活は彼のお陰で先輩に怒られたが又逆に助けられた、思い出ぽろぽろ喜怒哀楽の青春ロードだった、そのMの消息は私の視野から途絶えた。
東京はプロボクシングKジムで日本ランカーの先輩に可愛がられたガッツマンM !
東京の繁華街で先輩に連れられて食事に行った際、街の不良に絡まれた2人の緊迫の場面はMから聞かされた男の晴れ舞台 !
「すみません! すみません !」不良に頭を下げる先輩が「M よ ! 下がってろ !」 囁いたと同時に研ぎ澄まされた右のアッパーカットが相手の顎を捉えた。
「逃げろ !」・・・
呆然とする不良達を尻目に2人はその場を離れた、当時、売り出し中の軽量級のホープ、不良達がかなう相手でないことは言うまでもない。
その後、別の件でヤクザを相手に立ち回りを演じた彼は東京を後にして北海道へ渡った、道中、彼の苦境を救う女性の存在は彼の交友録に納められているはずである。
その彼の消息は、今もってわからない。
末っ子の彼の行く末を心配した彼の母の妹(叔母)と私の母の従兄弟が夫婦になっており、私たちは縁戚に名を連ねていた。
母校史に残る花の名番長、他校のイケズたちが信頼の眼差しを贈った男でもある。
霧の彼方へ消えた奴 ! 男 M !
波しぶきの上がる霧の海岸線を男子学生達が自転車を漕いでいた、それぞれの持ち歌が哀愁を帯びて潮の香りにとけ込んだ、MとY !
その横を通学バスが走り抜ける、彼等は女学生の眼差しに気づくよしもなかった !?