波止場へ
若い頃は何事も目的意識を持って行動したものである、その先にある願望、それは食欲であり、恋愛感情であり、勿論金銭欲は言うに及ばぬ。
港町にも小さいながら波止場があった昭和の何年だった かは記憶から消えたが九州行きのフェリー乗り場が出来た、それまでは権現様の麓の漁港が連絡船の乗り場だった。
あかつき丸 繁久丸と言う客船が大分、別府行きの代名詞であり我が故郷は九州への玄関口、伊予の商都と言われて栄えた。
終戦後いち早くアメリカ進駐軍が別府に上陸して温泉地の興隆を招いた、米兵と腕を絡ませて綺麗な女性たちが歩く姿を男たちは羨望の眼差しで眺めた、同時に敗戦の屈辱も身につまされることになる。
子供心に別府行きは憧れの都への別天地、アメリカナイズをカーキー色の軍服で印象づけられた、チューインガームとチョコレートは、戦勝国アメリカへの憧れに倍加した。
貧乏だった我が家に別府行きは夢のまた夢だったが、小学低学年の時に大分県の神社参拝への機会が訪れるのである。
あかつき丸に夜乗船して憧れの別府へと向かった、同郷の人の家に数時間お邪魔して早朝早く参拝した、見るもの全て珍しくその感動で克明な記憶が飛んでしまった程である。
九州大分、別府の地は私にとって希望の地でもあった、中学高校と仲の良かった友が、別府と大分の地で余生を終えた、豊予海峡は男同士の友情を裂くように霧に霞んで遠ざかった。
合掌 友よ !
波止場、男にとっての波止場 !
ポンポン船の出入りする漁港、生臭い潮騒に昔が引き戻される、幾度見送ったか別れの波止場、幼い友情が途絶えた古びた桟橋、九州は憧れにして引き裂かれた別れ道、白波が切なすぎる波濤。
波止場へ
大分の友が声を枯らす「一度逢いたかったお前に !」梅雨の訪れが友の嘆きを知らしめる「逢いたかったぞ!お前に !」
「男って奴は ! 男って奴は、辛いね !」
生暖かい涙のしずく、窓越しに我が頬を叩く !
「S よ ! 負けるなよ ! 又波止場で逢おう !」
男とは、いろんな悩みを囲った千切れ雲、集団にあらず孤独なひとり旅 !
一度空を見上げてください、浮浪雲が漂っている、ダチよ !?