名刺
「名刺で割り箸を折ったよ !」
私の最も親しい男がそう言って笑った。
「そう折ったの ! 折れたの ?」
私も笑って答えた。
たかが紙、最も弱いはずのたかが紙 !
数十年前、私もそう言って友に自慢した。
朝刊を手にとって慌ててめくった、その時、
「痛い!」指先に鋭利な痛みが走った。
薄い紙で指を切ったのである、
誰にも一度は経験した事のある痛み !
名刺で割り箸が切れた、その時の私の意識は
更にその後に向いていたのである。
常に準備して常に持ち歩いているもの、
ポケットや名刺入れに納まる我が分身。
名刺、たかが! されど ! 愛しい名刺 !
相手を怯ませる、我が身を守る護身の武器。
侮るな ! 軽視するな ! 効果を怖れよ !
私が封印した殺傷武器、使わない使えない武器。
友への返答も笑顔で返した、想像だけの遊び、
空想で戦う紙のドローン・・・
昨日も何人かの人からその名刺をもらった、
個性のある持ち主の意のこもった名刺の数々。
本来の用途で一生を終える事を願って、
今日もまた内ポケットで静かに眠っている。
相手との出会いがご主人様との別れになる、
愛しい名刺よ有難う、大事にして貰いなさい。
私の名刺 !?