ある日のちょうど正午12時、約束の場所に出向いた、
目当ての男の姿は見えない、私が先に着いたのだろう、
初めは分からなかったが歩道の樹の陰に佇む初老の男
の姿が目に止まった、後ろ向きに立っていた。
第六感が察知した・・・
「Aさん?」 その人は声に反応した、
こうして我々は、10年振りに再会した、
あの頃より、随分落ち着いた渋い男が笑顔を見せた。
多忙な彼には時間が限られている、いつ呼び出しが
くるか分からない ?
以前、待ち合わせで利用した事のある近くの喫茶店に
入った。
何か美味しいものをと考えていたが日頃の彼は仕事の
都合で外食が多いと言うその店自慢のランチを頼んだ、
改まって向き合った、時間の関係で空いていた店も
次第に来客で埋まった。
「元気だった?」 「Sさんも!」
懐かしい男との再会、彼との出会いは36年前に遡る。
紅顔の美青年だった彼の職場は責任感の伴う多忙な
世界、
困難な仕事に音をあげず地歩を固めて月日を重ねた。
彼は、遠慮気味に名刺を差し出した、
数少ない人たちのみが地位を占めるポジションに居た。
「よく頑張ったね! 祝福と感嘆の言葉を贈った。」
彼の頬が恥じらいで緩んだ、
初めての出逢いに想いで話がさかのぼる、
優しかった先輩Bの紹介だった、そのBは、更に先輩の
Cの引き合わせで知り合った。
B、Cともに激務の仕事を勤め上げて静かに定年後の
余生を送っている、人の縁の不思議さである。
食後のホットコーヒーを飲みながら話題は家族に及んだ、
奥さんの内助の功、ふたりの子供はそれぞれ家庭を持ち
Aと同じ世界で奮闘している、
「ええ! もうおじいちゃんなの?」 私の問いかけに、
彼の頬は更に緩んだ、
「ハイ!」
多忙な彼の仕事に配慮して次の食事会を約束し店を後に
した。
偶然にその直後彼と同じ職場の男から電話がかかってきた、
同じ建物だが別の部署のふたり、挨拶したらと進言した。
二人の身分は、天と地、
縁は男女だけの専売特許ではない、男同士の出会いにこそ
その真髄が有る。
私は、こうして幾多の縁を頂いた、
人の縁の不思議、人間の尊き出会いは、細やかな出会いから
始まる。