男達の挽歌 頑固者
これほど頑固な男とは思わなかった、
見かけは柔和で人当たりも良いのに
何故か女の話になると口を閉ざす。
どうしてだいと聞くと、
聞かないでくれよと言いやがった、
どんな過去が有るか知れないが水臭いぜ。
それから男は下を向いて黙っちまった。
男の故郷は、南の町から山を分け入った
ダムの村、家は今にも壊れそうに残っていた。
親父は小学一年のとき山仕事の事故で死んだ、
おふくろさんは中学卒業前病死、
兄貴がひとりいると聞いたが行方不明だという。
余程辛い過去が有るのだろう、
その話は一杯やった時に聞いた話よ ?
しかし、どういう訳か女の話には口を閉ざす。
まあいいさ !
男が言いたくなかったら無理に聞くことはない、
誰にも内緒にしたい話はあるものだ・・・
それから一年が経って、男は大阪へ出ると言う、
今以上に金になる仕事が有ると ?
行かないか誘われたがガキが小せいから断った。
それが男との別れになった、
それからしばらくして不細工な字の手紙が届いた、
大阪は、堺にいた。
トンネルの工事現場にいるという、
最後の方に、滲んだ文字で女の事が書かれていた。
将来を誓った女がいた21、男は23で同棲だった、
まるで、かぐや姫の「神田川」 さ ?
夕飯の材料を買いに行っての帰り道、車にハネラレタ。
可哀想に! 酔っ払いの乗用車が突っ込んできた !
彼女の腹には何ヶ月かの子供が宿っていたと言う、
それゃ! 荒れたさ! 暴力沙汰も数限り ?
そしてこの街に出てきた、
女が不憫で、己の甲斐性のなさを悔やんだのさ、
男って辛いね !
せめて俺に話してくれれば少しは楽になったのに、
男の頑固の、その理由が有ったんだね ?
今夜の酒はやけに苦かった、
男の、奴の辛い気持が、俺の酒に紛れ込んだのさ。
今度、ほかの頑固者に出会ったら、親切にしてやら
ないとね。
俺だって何時か行く道かもしれないもの ?
今夜のお月さん、やけに滲んでやがった・・・
男の気持ちを忖度して、泣いているんだね !?