広告
思い出

男のうしろ姿 辛いね Mよ!

うしろ姿
男のうしろ姿は寂しいものと相場は決まっている、
映画に観る男のうしろ姿は女心をもてあそぶ。

場末で観た、高倉健さんの肩を落として去り行く姿、
これは、男たちを身震いさせて余韻を残した。

幾多の男達が未練を断ち切って霞の彼方へ去って行った、
海を越えたもの、堀の中へ落ちたもの、中には二度と
帰らぬ異国の闇に消えたものも居た。

時代は、そんな男たちの慟哭を抱えて移ろいを見せた。

ひとりの男を登場させて見たい・・・
「Sさん!」 私の顔を恥ずかしげに見上げる男がいた、
私より3つ歳下の男だった。

物静かで控え目な美人妻がいた、
ふたりの間には、小学校へ上がる前の女の子と男の子が
ふたりいた。

その街から車で2時間の山村の町から出て来た男だった、
普段は寡黙だが何かあると前に出る腰のすわった男だった、
生業は、種々の仕事を転々した。

ある時、その町では最先端の娯楽施設がオープンした、
彼の親しい先輩が経営者の秘書についていた関係で採用
されたのである。

しばらくの期間をおいて彼は私の元を訪ねて来た、
そばに若い男女の外国人を同伴していた。

その外国人は二人ともイギリスから来た研修生だった。

はじめはたどたどしい彼の英会話だったが見る間に上達
して、冗談を言いあって笑い転げていた、
次第にその会話に私も参加するようになった。

手話サークルに入って手話を操れるようになっていた私
だったが、英会話は手話と合い通じるものを感じていた。

彼との交流は長くは続かなかった、
理由は判らなかったが、かれが会社を退職したのである、

木枯らしが舞い始めて港町に冬の訪れを感じさせる季節、
彼は、久しぶりに顔を見せた、

心なし寂しげに、憂いを見せて私に会釈した、
「元気だった!」 「ハイ! どうにか ?」

彼は、コーラを所望した、
少しやつれたかな ? どこか悪いところでも ?
しかし、それ以上の詮索は止めた。

経済的に、精神的に、彼は疲れていた、
ある事で、私の逆鱗に触れた、今振り返ると他愛もない
事だったが、 私の後悔がここにある !?

彼は、私の元から去って行った、
うしろ姿が寂しかった、何で ? もし、許していたら !

その後、家庭の事情で、私はその街を後にした、
数年後、風の便りがふるさとの噂を運んで来た、

Mが死んだ、病院で亡くなった、最後は孤独だったよ!

後悔は、先に来てはくれない、
私を慕ってくれたMは、修復の機会を迎える事なく、
思い出しては声を詰まらせて語った母の元へ旅立った。

彼が小さい頃産んでくれた母は薬石効なく亡くなった、
父は新しい母を迎えていた、
異母弟が誕生したことで彼の居場所はなくなった。

「Sさん!」遠慮気味に顔を出したM、私を慕ってくれた
淋しい男だった。

なのに何で、些細なことだった、私Sの帰らぬ後悔である。

男のうしろ姿、その姿は、いろんな寂しさを語っている、
今夜は、Mを偲んでひとり酒、杉良の歌でも聴こうか !?

「辛いね   !!」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

広告