墓標
木枯らしが舞っていた、コートの襟を立てて男は黙って歩いていた、汽車の時間が迫っていた、今会っておかないと2度とあうことはないだろう。
小さなアパートのちゃぶ台の上に一枚の走り書きが残されていた、「もう疲れました四国へ帰ります !」涙で滲んだ文字が女の胸の内を表していた。
男の足が次第に小走りになった、2人の住む古いアパートは駅裏の長屋の一角に建っていた。
苦労のかけどうし、「良いことは一つもなかったなぁ !」後悔の念が男の身を責める、近くの「銭湯に並んで行くのが唯一の幸せよね」と笑って言った女の言葉が胸を責める !
早く母親を亡くし、父を1人残しての大阪行きだった、2人はお馴染み、お互い貧乏な家庭に育った者同士、3つ違いの男と女、辛い別れがそこに来たのである。
一足違いで男は間に合わなかった、女は年老いた父の面倒を見るため愛媛に帰った、それから3年後、男も女の後を追って愛媛に戻ったが、しかし2人の再会は叶わなかった、女は田舎の農協職員と再婚したのである。
男は松山で町工場の職を得た、そして更にそこで知り合った女性と所帯を持つ事になった、2人の接点は途絶えた。
田舎の春祭りがやって来て、男は妻と祭りを見に帰った、海沿いの広場で祭りのねり(唐獅子舞等の行事ごと) が行われる、狭い広場は村人でひしめいていた。
男の目が少し先の小さな子供を抱っこした夫婦を捉えた、「A子!」 男は声にならない声を出した、隣の妻が怪訝そうに見上げた。
当然、2人を知る村人もいる、言葉を交わすことなく2組の夫婦はすれ違った、その後、同級生からA子の事情がもたらされた、小さな子は男の子、ダウン症の子供だった。
男は健気なA子が不憫でならなかった。(どこまでも苦労するな ! A子は !)
男の責任感がある事を胸に刻むことになる、
男は堰を切ったように仕事に没頭した、小さな町工場だが時流に乗って業績が飛躍した、功績を買われた男は社長から取締役に抜擢される事になる。
その後、男の身に異変が起きて病院の門を叩いたが健康を取り戻すには遅すぎた、
彼の回復は叶わなかった、その年の秋祭り、彼は病院の一室で若い生涯を閉じる事になる。
亡くなるに際し彼は一通の遺言書を書き残していた、公証人役場での公正証書遺言だった。
妻は勿論だが、胸に秘めたA子への贈与も記載されていた。
その彼は杉の子の大切な2級後輩、彼の死亡を半年後知ることになり、お悔やみに訪れた私に妻の言葉は辛く突き刺さるものだった、
「パパはSさんに逢いたかったと思います !?」
見舞いを請い焦がれていたと知らされた私は、仏前の遺影に涙が止まらなかった。
「Bよ ! もう少し待ってくれよ ! 必ず逢いに行くからな !」
男の友情、男の美学 ! なんて切ないんだ !
男の切なさ・・・
♪ つよがり酒 秋岡秀治
YouTubeでご覧ください。
その後、A子と偶然出会った私に彼女の言葉はまた泣かせるものだった、
良い男と良い女、幸せな家庭を持たせてやりたかった、私の哀しくも辛い述懐である。
華やかな舞台で演技する有名人がいて、有り余った富に囲まれる実力者たちがいる、その中で市井に埋没する名もなき人々、
ひとかけらの幸せさえ得られない人間がいる、現世は矛盾だらけ、それでも幸せを求め続ける人々に陽が当たる事を願って。
墓標
墓前に線香を手向けたいと思っている。
合掌 !?
貴方が綴られる、人間模様。
それはまた、貴方にしか書けない、人情の機微。読んでもらいたい相手は、既に黄泉の人。それでも書かずにおれない貴方。
なんとなく分かる気持ちがする、今宵です。こんな夜は、演歌ですね。少し酒でも飲みましょう。
onecat01さん、
昨日から正月の準備で駆け回っていました例年の餅つきもしましたよ。
あなたのブログ、愛国心をなくした物欲主義者たちへの警鐘、いつも目を通しています、
愛国心をなくした国民に怒りの前に失望を抱く私ですが、あなたの啓蒙を力に前を見て歩んでいます。
多数の中の少数、10人の知人がいれば10以上の物語が生まれる、私の世界観はゆえに広がっています、
男たちとの友情は男歌、女性との出逢いは女歌、それはまさに演歌の世界です、若くして亡くなった友を懐かしむ私に演歌は大いなる希望なのです。
東京夜景、男同士の契り酒、誰かさんが力づけてくれました、コロナウイルス何するものぞ
! です、
医療現場で渾身の努力に努める方々に心から御礼申しあげます、皆さんにも身体を気遣う家族がいるのです。
男同士の友情、男たちの挽歌 ! 男は愛国心をなくしたら駄目、誰が愛しい人を、大切な家族を守るのか、早くお花畑から卒業することを願っています。
年末の忙しい時にコメントをいただき感謝いたします。