もうひとつの別れ 友よ !
「家を取るか、女を取るか」その時、友は究極の選択を迫られていた。
彼は、由緒あるお寺の後継者にして穏やかな人格者、当時の私は無骨な男の世界を満喫している一介の素浪人。
当時、彼の弟2人は空手に青春を燃やしていた、上の弟は東京大学空手の強豪校在学中、私達は兄弟同然に育った。
彼は女性を選んで家を出ることになった、その相手の家で結婚式はとり行われた、私の細やかだが心のこもった精一杯の祝辞に参列者は嗚咽を漏らした。
暖かい気候の地、四国は高知県境の寺の住職を務め彼の意義ある人生は終わることになった、彼の義妹から彼の死と告別式の知らせがもたらされたのである。
住職を継いだ後継者の息子の手で黄泉の国へ導かれる事になる、「Kっちゃん !」男道そのものの弟達と違って思料深い人柄の男だった。
このコロナ禍、殆どの葬儀告別式は質素に執り行われるが、彼の妻からの伝言は「可能なら是非出席して欲しい」というものだった、勿論ふたつ返事で了解した。
荼毘にふす前の彼に逢いに帰る、数々の想い出があるが、新婚旅行の船上から彼ら2人は私へ涙声で感謝の言葉を届けてくれた。
辛い時の私の励ましと祝辞に嗚咽を漏らした新婚カップルだった、「Kっちゃん ! T子さん !」ついに別れのその時が来てしまった、辛いな !
「若年寄 !」若い頃の遊び友達が私につけてくれたアダ名である、私は20歳を境に人生が180度変わった、孤独なモテない男から何かと頼られる男に変化したのである。
様々な相談が持ち込まれた、男同士の揉め事から男女の三角関係に至るまで、その中心に厳格だが包容力のある前住職の子供達との契りが生まれるのである。
夜が静かに更けて行く、悲しみに強いはずの私だが、さすがに彼との別れは辛い、兄弟同然だったもの ・・・ !
私の第2の我が家、5人兄弟とは実の兄妹同然に育った。
私を慰めるように、いや逆に悲しみを増幅するように ♪ 夜空のトランペットが哭く ! ♪ もうひとつの土曜日が切々と 語りかけてくる。
「ニニ・ロッソ ! ・・・浜省 ! 切ない !」
もうひとつの別れ 友よ 『 Kっちゃん 』 !?