妹よ
昭和が何の不安もなく輝いていた時代、私は二十歳を迎えていた、農業高校を卒業すると就職の道を選ばないで母の懇願に口説かれる形で家業を手伝うことになったのである。
その当時、父の本家では九州鹿児島を本拠地として手広くトロール 漁業を営んでいた、資産家の家柄に数えられていた、
伯父が亡くなると長男の従兄が跡を継ぐことになり、分家の私に手伝ってくれと白羽の矢が立った。
勢いのある本家は、瞬く間に地元の水産業のかまぼこ会社を買収して事業拡大に乗り出した、家から会社までの30分、社長を継いだ従兄の送り迎えが始まることになる。
その合間を縫って一般は勿論高校生多数とともに空手道の稽古に励む日々が始まる、向こう意気の強い男の誕生を迎える。
本業の事務所は町の中心街のメインストリート沿いに在った、その事務員は私と同じ歳の娘さん、気立ての優しい女性だった。
その内、中学生のセーラー服姿の女の子が出入りするようになる。
物怖じしない溌剌としたいでたちは私の好奇心を引き寄せた !(小生意気な女だなぁ?) これが当初の印象であった、名前はフミと言った。
私の青春にインパクトを与える乙女との出逢いになる、父母を早く 亡くしていた、姉妹は叔母さんに面倒を見てもらっていた。
中学を卒業すると市内では大きな総合病院の看護婦への道を選択して夜は定時制に通いはじめた、真面目な努力家だった。
活発な性格は男性にモテた、そして揉める事も往々にあった、私の出番が否応なく増えることになる、「ヤレヤレ!」だった。
だから男女の感情が芽生える暇もなかった、あれよあれよと言う間にお互いの生活環境が多忙を極めることになる、それぞれの旅立ちがそこに来ていた。
私の独立と人間関係の多種多様でお互い触れ合う時間がなくなって行った、存在さえも見失いがちになる、兄と妹はこうしてそれぞれの家庭を築いていた。
私が仕事に没頭したことと、彼女が私のお気に入りの男性を結婚相手に選んだことがお互いを意識しないで済む要因になった、安堵と旅立ち !
勿論結婚した2人は時々連れ立って私の店に寄ってくれた、その幸せな姿に私は安心していたのである、だからお互い干渉することもなく月日を数えることになる。
「フミよ!いい男にめとってもらったな!」
と言うのが正直なところだった。
再会は彼女の姉の電話がきっかけだった、主人と次男の死亡が伝えられた、
「落ち込んでいるから励ましてやって !」
青天の霹靂だった。
「フミよ! ・・・」
電話の向こうで、か細い女のしのび泣きが聞こえた。・・・
妹よ !?