忘却とは
思いもよらぬ人からの電話、時間が逆転したような不思議な感覚を味わっていた、
「・・・Sさんですか? Kと言います、Sの妹です。」青春時代の可憐な乙女が突然現れた、嬉しい衝撃だった。
「分かりますよ! Kちゃんですね。」私の同級生Sの妹、昨日彼と電話を交わしたばかり、関西在住。
昔、私が店を経営していた頃彼女の職場の同僚たちはよく来てくれていたが、彼女の記憶はない、おとなしい女性だったのだろう、それにしても電話は弾んだ、彼女も雄弁だった。
いっぺんにあの頃、あの日の思い出が蘇って来た、彼女のすぐ上の亡き姉はその友人と共に私と従兄弟の単車にそれぞれ同乗して南予路をドライブしたのである。
プラットニック・ラブ、数少ない女性とのひとコマ、Sの唯一のラブロマンスが背景に有ったのである、懐かしい !
電話は延々と1時間近く続いた、彼女の兄から何かと相談を受けており、その一端の連絡だった、お姉さんへのオマージュ、涙が滲んだ場面では恥ずかしながらKちゃんに照れ隠しの冗談を言って誤魔化した。
数十年の歳月が昨日のように蘇った、私のアキレス腱純情な頃が鮮明に浮かんで来た、彼女もその何たるかをよく理解していた。
懐かしいあの日が彼女の瞼にインプットされていた、女性を前にすると顔を上げられなかった純情、モテない男の弱味、それが為の悲恋 !
「忘却とは忘れ去ることなり、忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ。」
男に縁のない「君の名は」 なのに私の記憶の中では生き続けていた。
お姉さんと3つ違いの彼女である、お姉さんの友達と私のプラットニック・ラブは聞いていたようである、たったひとつの大事な思い出、まさか目の前に現れるとは、時の流れが走馬灯のように蘇った。
しかし過去を振り返ってみると、男同士の揉め事には必ず女性が絡んでいた、その煩わしさには私の性格は合わなかった。
私の人間関係は、だから男同士の友情が優先した、女性に気を使うなら男のヤキモチ、無礼はまだ許されたのである。
久しぶりに2箇所の役所に出向いた、定年後嘱託に残った職員、まだこれからの若い職員が、元気な声で迎えてくれた、「まだ、頑張ってますの ? からだ気をつけて下さい !」 気配りが嬉しい !
昨日は難問の相談を受けた、男同士のやり取りは張り合いが有る、いかに法律に触れないで許可を取ってあげれるか ?
男の器量が試される。
忘却とは !?