母の涙 旅立ち
ある仕事をされている50代の奥さんがいらっしゃいます。
朝からの雨で集金に回られるのは大変だと思いお電話した、
「家に来られても留守しています、度々来られるのはお気の毒
ですから何処かでお渡し致しますよ ?」
恐縮されたが待ち合わせ場所を聞いてお会いすることになった。
町中のお寺の境内だった、広い駐車場には2台の先客が居た。
お相手は雨の中、傘をさしてお待ちになっていた、
この9月末は奥さんにとって嬉しい日の到来なのである、
ひとり息子が研修期間を終えて実社会への旅立ちの日である。
重要な職責で、荷は重いが社会のために尽くすことに為る、
「所属部署はどこに配属になりましたか?」
そこから話は始まった。
大学を卒業する息子さんの話を聞いたのが始まりだった、
就職が決まり研修の日々を控えていた、偶然私の知り合いが
その会社で研修部門を受け持っていたので早速お願いした。
人つながり、人と人の縁は善意にこそ花開く、自分だけの
殻に閉じこもっていては、運命は開かれない。
研修期間が終わって第一線に配属されたのである。
明るいお母さんに似て、きっと良い男に違いない、それまで
大手スーパーでアルバイトをしていた、この経験も必ず実るに
違いない、女手一つで育てた自慢の息子である、孝行して
くれるだろう。
詳しい事情は判らないが、離婚されて苦労しながら子育てに
涙した女性 (ひと ) のようである。
お母さんは息子さんのプライバシーも語ってくださいました。
足元を見つめ、しっかりと人生を歩んだ人は、神々しい、
「笑う門には福来たる」 この言葉がピッタリの女性である。
与えられた仕事、職場の不満など一切言わない心やさしき母、
この母親に育てられた息子である、職場でも同僚、上司に好か
れる男になるだろう!
昨夜も東京から素晴らしいメールが届いた、
「ご厚意はありがたいですが、自分の求める道を頑張ります、」
「いつの日か、銀幕に 君の名前を見れる事を期待します。」
わたしは、そう返事の最後に結んだ。
世界の最先端分野で日夜奮闘する親友の息子である。
東京は、涙で霞んだ恋しい街、女性との叶わぬ恋の未練街。
切ない言葉で結ばれていた。
秋の雨は、孤独な想いをさらに締め付ける、人恋しい夜は、
虫の音にさえ、弄ばれる、雨よ、シトシト降る 秋雨よ !?