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雑談

お小夜の恩返し 蝉しぐれ ファンタジ-

この娘を間に小さな物語が始まる・・・

お小夜の恩返し ( 蝉しぐれ ファンタジ-) 
正月の余韻がかすかに残る新年の賑わいが太平とお絹の店にも戻ってきた、
娘の名はお小夜と言った、日にちを数えるほどに実直な二人に安堵したのか
娘は氏素性、いきさつを語り始めた。

伊予松平藩城下に小間物問屋糸屋という町屋(商家)が在る、
店の主人は手代から婿養子に入った苦労人の庄八、先代が実直な仕事ぶりから
長女お菊にどうかと身を乗り出して婚姻が整った、そしてお小夜という娘を
授かったのである。

真面目な仕事ぶり、苦労人ゆえに使用人たちに注がれる眼差しは店の活力に
繋がって商売は繁盛して行った、そんなある日城中から使いの者が訪れた。

伊予松平藩の御殿女中として召抱えたいとの沙汰である、
ありがたい申出に両親は感泣した、商売の繁栄と興隆が約束されたも 同然で、
しかし肝心なお小夜の考えはどうなのか、親子の話し合いが持たれた。

お小夜には密かに将来を夢見る男が居た、伊予大洲藩城下から勤勉が取り得の
働き者吾助という丁稚がいた、仕事の合間一声二声交わす仲だが芽生えてくる
ものは押さえようもなかった。

糸屋には断る理由も娘を気遣う余裕もなかった、話だけが進んで行ったのである、
それからしばらくして明日お城から迎えの駕籠が来るという夜、お小夜は店を抜け
出して泣きながら街中を彷徨った、知らぬ間に太平の店先に佇んでいたのである。

お小夜は太平とお絹の店で十日程逗留して店を手伝った、必死に探し回った店の者に
見つかって連れ戻され、お小夜の御殿女中としてのかごの鳥の日々が其処に来ていた、
手代吾助への思いが実らぬまま二人は右左に引き裂かれた。

それから数年・・・
太平とお絹の店はいつもの商いを続けていたが、有る事から請け判に嵌められて、
事態が急変する、地回りの厳しい取立てに日夜地獄を見ることになる、
客足は遠ざかり日々の仕入れにも事欠く有様となり、ふたりは途方に暮れた。

「お前さん、いっそう死のうか ?」 お絹の自慢の頬が痩せ落ちた、「うん !」
力なく答える太平の目にも涙が溢れていた。
今夜、店を閉じて黙って人里はなれた岬へ行こう、覚悟のふたりに夕闇は辛く切ない。

暮六ツ店の前に人目をはばかるように籠が止った、日頃見上げる城から使いの駕籠に
五人の伴侍が付いていた、

駕籠の引き戸が開いて側室お小夜の方様が顔を見せた、あの時のお小夜である。
御殿女中として使えていたお小夜に殿のお手がついた、側室お小夜の方様へのお成り。
その後、正室御台様の御逝去もあってお小夜の立場は急転する、御台所お小夜の方様の
誕生である。

居酒屋太平とお絹 身投げの間際 お小夜の方様の御成りを迎えて感泣に咽んだ。

後日談、居酒屋太平は正室御台様に御成りのお小夜の方様ご贔屓の店として繁盛していく。

「お小夜の恩返し」 蝉しぐれ ファンタジ-
私にも思い当たる節があるが、それは悲恋に泣いた友の別れ詩そのもの、遠い日の物語、
夢であればと何度咽んだことか、人を愛することは止められない、止められる愛は偽物。

見た目で人を評価するな、その貧しい身なりの中に輝く真心があることを知ることである。

お小夜の物語は時を刻んで現代にも言える、この世に男女が居るかぎり延々の物語である。

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