故人の住まいから少し北へ入るとそのお寺は在った。
葬儀告別式の時間に合わせてお寺に着いた、
寒い雨が降っている、たくさんのお別れの人の傘が
物悲しく雨を受けていた、
寡黙な芯のある人だった、本当は好き嫌いのハッキリ
した人なのだが私には得も言えぬ笑顔を見せて貰った。
奥さんや跡を継いだ社長に言わせると信頼して貰って
いた様である、最後のご対面、末期の水を捧げた。
三代目を継ぐ予定の孫の花嫁さんを頼まれている。
「A君のお嫁さんはこのSが必ず見つけてあげますからね」
責任重大だがそのように故人の寝姿を見てお伝えした。
私とは二代目社長夫人を通じて親戚になった間柄である、
尚更、想いは強い。
昨日の暖かい日和が嘘の様に、寒気を伴った雨が参列者を
泣かせる、八十に手の届く間際だった、孫の花嫁さんを
待ち焦がれたと聞く、二代目の凛とした挨拶が際立った。
駐車場が目一杯車でひしめいている、前車の退出を案じて
一足早く菩提寺の葬儀場を後にした。
・・・・・・
数十年前、故郷の町の市役所市民課の窓口で私の後輩の弟分
とバッタリ出会った、
「何の用事だい ?」親しい間柄の私の問いに、彼は照れた
ように答えた、
「娘が生まれたので出生届けに来たんよ!」 その嬉しそうな
顔が、次の年の娘の誕生日を迎える事はできなかった、
職業として選んだトラック事故で彼は命を落としたのである。
後輩の落胆は勿論だが新妻の慟哭はいかばかりで有っただろう!
あれから四十数年の月日を数える、残された妻と幼児の人生は
どんなイバラ道だったであろうか ?
普通であれば、娘も結婚して子供が居る筈である、若くして
未亡人になった妻の心中に想いが向かってならない!
亡きその人は私の同級生の姉婿の弟、飾らない素朴な男だった。
八幡浜市の奥深い山間の村に彼は静かに眠っている。
妻を思い、娘を案じた男の魂を思うと、私の胸は塞がる、
彼と身内になった同級生に、その後の母娘の運命を尋ねたい。
愛別離苦、幾多の故人との思い出を振り返ると私の心に浮かんで
来る言葉である。
出逢いは偶然を伴い、別離は決められたさだめに消える。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
合掌