出口の見えないトンネル、
山深い森林に紛れ込んで道に迷ってしまった、
暗闇を手探りで進むといつの間にか獣道に入った。
喉が渇く、窪んだ脇道に狭い溝が流れていた、
手を降ろすと、チョロチョロ冷たい水に触れた。
顔を屈めると、額が湿った松葉に触れる「痛っ!」
それでも冷たく美味い水が喉にしみ込んだ「ああ!」
(何時頃だろう ?)耳を澄ませると遠くで竹の折れる
音がする (イノシシだ!)
人間は極度の緊張に苛まれると正常な思考が出来ない、
それも長時間に渡ると何が本当で何を間違ったのか?
冷静に判断出来なくなる。
それにしてもなぜ自分がこの場所に居るのだろうか?
すこし前の事さえ思いが至らないのである?
ただ!助かりたい一存? 明るい下界へ下りたい !
鈍痛のする左足が思うように動かない ?
先ほど、蔦に足を取られて2m程の崖から滑り落ちた、
その時、出っ張っていた岩に強打したのである。
必死に足を前に進める、足のヒラが冷んやりと冷たい、
左足を打った時、左の靴が取れていた、素足だった。
肩に何かがが当たった「痛い!」 左足を強打したため
身体の均衡が取れず左側に揺れていた。
どうやらコンクリートの壁に ? 左肩をぶつけていた、
地元の百姓が通作に使って居る林道のトンネルに迷い
込んでいた。
と言う事はこのまま進めば人里に出れる事になる ?
いっぺんにカラダの力が抜けた、足元が揺らいだ 、
ドスン、後ろに尻から落ちた !
そのまま、眠りに入ったようである ?
「リーン!・・・」 ケイタイが鳴った !
私は、我に帰った!
( ここは、何処なんだ ? 助かったのか ? )
車の運転席にいる、フロントガラスに柴垣が見える、
「もしもし、・・・です、OKになりましたから次の
準備願います。」
ある役所の馴染みの担当者の弾んだ声が飛び込んだ、
公園の樹々がそよいでいる! まだ、咄嗟の判断が
出来ない、重苦しい胸の圧迫感が少しづつ消えた!
( ああ!そうだ ? そうなんだ ! ) 合点がいった !
私の歴史に残る汚点、只一度の難問 ? 何年も引きづっ
ている難関? ようやく陽の目を見ようとしていた。
薄空が暖かい陽光を雲間から覗かせていた、
明るいって事は希望への道、暗闇から抜け出る事は
生きる証。
そうだ! 昨日嬉しい便りが来たばかりだった、
「紹介されていた仕事の許可が下りました、・・・の
役職を受ける事になりました。」
私が心を開ける男たち、礼儀作法の見事な男たち
その名は、 武道家! 男。
男とは、何事も諦めない事、 継続する事!
押忍