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雑談

名もなき男のひとりごと  不覚

不覚
外に闇が忍び寄っていた、昼間の熱風が路面から反射していた。

肌襦袢一枚半ズボンの下駄履き、気楽な格好で映画館から外に出た、
長身の人影が前の角から出て来たのは分かったが道路を右に折れた
のでそのまま見過ごした。

うつむいてセブンスターを取り出してライターをつけた「カチッ!」
タバコの先が赤く燃える、思い切り吸い込んだ! この一服が旨い !

突然、右横から男が迫ったと思うと右脇腹に激痛が走った ?
先ほど目に入った長身の男に前屈みでアッパ-気味に脇腹を抉られた
のである !

身体を右に振られた男は、ちょうど相手と真向かいに向き合う形に
なった、とっさに下駄のまま前蹴りが相手の水月に入った「ズン!」
「うっ!」 相手は、腹を抱えて苦悶の表情で座り込んだ。

見覚えのある男だった、ある食堂で目があったと文句を言われた事
がある、その時は、相手の連れが間に入って事なきを得た !
その時の、嫌悪感が消えずに残っていたのだろう ?

映画館から他の客がゾロゾロ出て来た、崩れた男に目をやっている?
男は、そこにいては面倒になる事を察して素早く立ち去った。

盆踊りが終わって、蒸し暑い夜を避けたお年寄り達が、縁側に出て
夕涼みを取る夏の終わり、町に秋の気配が漂い始めていた、

軒下に風鈴の音が「チリン! チリチリ!」 縁側で飼猫が寝そべって
いた、のどかな風情の中でも人々の暮らしは不協和音を漂わせていた。

平和が、いつまでも続くと思わない事 ?
同族同士でこれなのに、国同士になるとどんな事になるか ?
民族の生存をかけた殺し合い!

男はどうあるべきか、その男は、幼くして肌で感じて育った、
寡黙な親父だったが、敗戦の痛手を憂い国の行く末を語る事があった。

少年の日に見た、親父の背中、男とは、死に物狂いで家族を守る者。

不正を憎み正義に拍手する名もなき男、あの日の拳(コブシ)が泣いている。

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