夜に向い又昨日のように町全体が寒さの底に沈もうとしている、
仕事を終えて一息パソコンの前に座って思索の時を迎えていた。

「それにしても寒いな ！」　やせ我慢の私に暖房は似合わない、

あの日、雪の舞う片山町界隈は白一色に染まって、底冷えのする
夜の帳を迎えていた。

まだ早い時間だったと思うが、二人連れのその筋の人がドアを
開けて入ってきた、

既にカウンタ－には、漁が休みに入った数名の漁師たちがビ－ル
を数本空けていた。

奥のボックス席の二人連れから地元の顔役の名前が出てきた、
漁師達はそのお膝もとの男衆だったのである。

揉め事は些細なことから始まる、言葉の綾が誤解に拍車をかける、
そこへ酒が入るとどうなるか１人では出来ない野暮も仲間が居れば
神経が切れる。

「何を見ている　！」
「ガンつけて文句があるのか　？」

「何！　どこの者か　？」
「それが、どうした　！」

売り言葉と買い言葉、仲裁人が居ないとどうなるかの典型である。

これらの場面に私はいない、後からバ－テンはじめ贔屓な客と乗り
付けて来たＹ署の刑事から聞かされて知ったことなのである。

私は別の純喫茶でお客さんの相手をしていた、
そこへ杉の子のバ－テンが息せき切って駆け込んで来たのである。

馬鹿が電話をすれば５～１０は短縮できたものを走って来た分対応
が遅れた。

私が戻った時には刑事達に双方が連れて行かれた後だった、
２人連れは地元の漁師にビ－ル瓶の直撃を受け怪我した模様だった。
しかし、たいしたこともなく双方翌朝開放された。

２人組みに逢う機会はなかったが漁師は顔馴染みの良い奴ばかり、
喧嘩は些細なことから始まる、綺麗どころの女が居れば男は単純だ、
直ぐ舞い上がる、困ったものよ。

暴走族にしても、チンピラ兄ちゃんにしても、膝を寄せて話し合うと
実に男らしい性格を持っている、私の交友録にある彼らは押し並べて
情の分かる男達だった。

寒い夜は、あの港町の男達が追憶の向こうから蘇える、

頭突きが得意だとガチンコした昔の侠客、それから私を気に入って
くれて、私の顔を見ると安心したように直ぐ店を後にしたＩさん。

そんな良い奴は二度と交じ合うこともなく此の世からおさらばした、
意気がるのに根は正直な男達、そんな野郎が大好きで私の青春回帰は
止らない。

たくさんの男伊達が覗いている、向こうから必死に手招きしている・・
「杉の子のマスタ－一杯どうや　！」

「随分、逢わなかったけど元気だった　？」　白髪の増えた男達が
満面の笑顔で降り続く雪を頭に乗せていた。

「そこにいないでお入りよ、熱燗いくかい　？」
片山町　杉の子　界隈、今夜は雪でお仕舞です、あとは内緒の無礼講。