竜二 ・・・
懐かしい男の顔が瞼の裏を濡らす、逢いたくても会えない望郷の彼方、
竜二 !
・・・
その日は、少し早めに家を出て珍しく電車に乗った、
会場は人もまばらでそれでも懐かしい顔が多く見えた、
「よう! 元気 !」
テーブルには、早くもいかつい、この席には不似合いな
恰幅のいい同僚が席についていた。
「A」・・・
あれ!ホテルの部屋を間違えたか ? 辺りを見渡したが馴染みの顔 ! 声をかけて彼の横の席に腰を下ろした。
堅苦しい席よりラフな男が私には似合う、丸いテーブルの新人さんが身体を小さくしてかしこまっていた。
コワモテさんが気になる様子 ?ビールの乾杯が終わるまで敢えて無視した。
宴もたけなわ、コワモテと私の漫才を新人さんに見せる、
「怖くないんだ? 良い人なんだ !」 頬が緩んだ、私一流の気配りだった。
その時、二人の男が目の前に立った、時が宴会だから、皆正装、だからコワモテ。
竜二が兄弟分と立っていた( ヤクザ映画調?)
「お久しぶりです ❗」
ニヒルでもなく、にこやかな笑顔だ !
横のコワモテさんも相好をくずした、一度に座は賑やかになった、だが新人女性の表情が、又こわばった ?
「大丈夫だよ! この人は・・・?」 耳元で「・・・だから心配いらないからね !」
一瞬、頬に紅がさした、「まあ!・・・」 渋い男たちだ ! ふたりとも ? 別の男性が「ええ! 竜二! 金子正次の ?」
驚いたように目を見開いた !
竜二 金子正次
銀幕で見せて、浮世で散った、男の生き方 !
「都にあこがれて、飛んできました一羽鳥。ちりめん三尺ぱらりと散って、花の都は大東京です。」
銀幕の中で竜二が啖呵を切った !
忘れられない男の生き様 ! 竜二の肩が崩れた。
路地裏の屋台の前で妻の永島暎子と娘桃が抱き合って泣いて
いた、ヤクザ稼業の竜二の妻は、涙を呑んで切ない !
萩原健一の♪ ララバイが若き正次の死を悼んでむせび泣い
ていた。
横にいる男は、正次の身内、うつむいた表情に竜二の陰りを見た !
追憶の竜二が、松田優作が手を携えた金子正次の面影が大きく揺れた !?