小雪がちらつく寒い日だった・・・
兄貴分のTちゃんと弟分の私は狭い未舗装の田舎道を
隣の村へ向かって歩いていた。
右手の海から大波が打ち上げて来た、危機一髪よけた
途端に身体の均衡を失った、「大丈夫かSやん!」
故郷の方言は名前をあだ名で呼ぶ事で特徴を持つ、
2人は隣の小部落のTちゃんの同級生N君の家へ行く、
家並みが途切れた所に保育園がある、隣村のすぐそこ。
緩やかなカーブを曲がると見覚えのある先輩がやって
来るのが見えた、
3人連れでTちゃんよりひとつ年上の意地悪な男達だ!
( 困ったな!) 気の小さい私は一瞬心臓が高鳴った !
それを察したTちゃんは力強くつぶやいた・・・
「 Sやん! 少し山際に避けておけよ !」
向かって来る3人の頬がゆがんで目はキツくなった !
Tちゃんに2人、私にひとり向かって来た、
私は肩を押されて恫喝された「横着な奴!」だと言う。
突然!「ドン!」大きな音と「わぁ!」と哀れな悲鳴が
上がった !てっきりTちゃんがやられたんだと私は肝を
冷やして顔を振った ?
恐る恐る脇を見るとTちゃんが一番偉い相手の上に股が
って尚拳を振り下ろしている、目は完全に血走っていた。
ところが後の2人が泣き出したのである、小学校の6年生、
それを見てTちゃんの動きは止まった、
「二度と文句を言うな !」Tちゃんの啖呵が飛んだ !
下に組み敷かれたワルは哀れな顔で唇に血を流していた、
私に視線を這わすと兄貴分は、初めてニヤリと笑った。
「Tちゃんは、おいらの兄貴分、遊びの先生 !」
昔は、こんな男とは何かを教えてくれる先輩がいた、
日本が目覚ましい発展を遂げる昭和の夜明け前、四国は
片田舎の物語である。
その後大きくなったTちゃんは大工さんになって同級生と
結婚し数人の子供が産まれたが、ある年の冬12月末に
最愛の母の眠る墓の前で生きる力が途絶えた。
「Tちゃんはオイラの兄貴分 ! 遊びの先生 ! もっと
長生きしていつまでも仲良くして欲しかった、Tちゃん❗️」
日本に四季折々の山河が在るように、男達の身体の中には
愛国心のDNAが力強く流れている。
負けるな! 日本 ! 大和男子 !?