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思い出

白い恋人 シロと言う名の・・・

秋の夕暮れは6時になると暗さが辺りを支配する、
私は、用事を済ませて田圃のあぜ道を家路に急いでいた。

稲を刈り取った四差路に差し掛かった時、何か白いものが
突然、視野に入った、戸惑ったように立ち止まっている、
(なんだろう?) 車を止めて目を凝らしてみた、白い犬だった。

車のライトの視覚の中に不安げな犬が立ち止まっていた、
見覚えがある、懐かしい野良犬、捨て犬のシロちゃんだった。

「シロちゃん! シロちゃんか?」 私は運転席のガラス窓を
開けて、その犬に声を掛けた・・・

反応が返ってきた、戸惑った、困ったような、しかし、安心
したような、シロ独特の表情だった ?

「シロちゃん、こっちへおいで!」 そう云いながら車を交差点の
北側へゆっくりと進めた。
・・・・・
何年前だっただろうか ?
そこは、公園の桜並木が一直線に続いている土手沿いの道、
車を止めた私の視野に土手の上に白い動くものが見えた、
それがシロと名前をつけた白犬との始めての出逢いだった。

悲しそうに、しかし、逃げもせず私の視野に佇む犬だった、

白い雑種犬、私にとって忘れ得ぬ犬だった、そう忘れじの
スコッチ、まるで生まれ変わりのような犬だった。

それ以後、時々出会っていたが、よほど人間に怖い目に合った
のだろう、けして近寄ることはなかった。

他の犬が餌に釣られて寄ってきても彼女は遠くから悲しげに
見ているだけで近寄らない、私が近づくとそれだけ身を引く
悲しげな犬だった。

シロの腹を見て女の子だと分かった、小さな子犬を連れていた、
お母さん犬だった、悲しげに佇む 愛しの犬だった。

あることで、私の日課は終わりを迎えて、犬猫に愛情を注ぐ
他のお方へその任を引き継いでもらった、私と犬達との別れ
だった。

「シロちゃん、覚えていてくれたかい ?」 その身体は一回り
小さくなっていた、相変わらず数メ-トル私から離れている、
彼女の消息は後継者から聞いて知っていた。

「Sさん、シロちゃんはプチと一緒に元気でいますよ・・・」
Aさんから聞かされていたが、元気な姿を見るのは久しぶり
だった。

シロと名の付くスコッチ、スコッチの生まれ変わりシロ、
私は、見送るシロの視線を振り切って家路に急いだ。

私の住む、一級河川重信川は、石鎚降しの舞う冬支度を始めた、
か弱き者達が身を縮める白い世界を迎える、酷寒の河川敷、

「がんばれよ!」 人間の勝手で暖かい家庭から捨てられた犬の
終の棲家と言うには厳しい世界である、私Sが涙を堪える季節。

人間は大自然の恩恵を受けながら果たしてその恩に答えることが
できるだろうか !?

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