雨の日の幻想
用事を済ませて午後6時ごろ、暮れなずむ旧国道の街並みを
軽四自動車は走っていた、新旧交じり合った建物が続いている、
ふっと気が付くとフロントガラスに霧状の雨が舞い落ちていた。
前方のヘッドライトと、ポツン ポツンと間隔を置いた街灯が得も
いえぬ淡い趣をかもし出していた。
車の流れはそれ程でもない、だから奇妙に引き寄せられる感覚を
味わっていた、
「あれっ! 何だろう?」季節はずれのホタルが無数舞っている、
ズ-ムインのように近くなる、そして遠くなる、ゆっくりと緩やか
に不思議な光景だった。
蛍でないことは、その余りに小さいことと、寒さの厳しい季節柄で
理解した、では何なのか ?
フロントガラス面に吸い付いて、そして離れて運転席横のガラス窓に
回り込む、まるで何かを私に訴えかけているようだった、
青色と、赤色 黄色 まるで発光ダイオードのような鮮明さだった、
不思議なことがあるものだ? 運転を心配しながらそれに魅入る私が
いた。
2014年度ノーベル物理学賞 受賞の青色発光ダイオード中村修二博士
のテレビに映る顔を思い出していた。
四国八十八箇所 第〇〇番札所の看板が街灯に照らされて迫ってきた、
私は、一種 幻覚にかかったようなぼんやりとした状態を自覚した。
しかし、ハンドルを握る両の手の指先は、現実の感覚を掴んでいる、
交通事故が頭をよぎった、馬鹿なことを、理性がしっかりと現状認識
していたので安堵する。
しばらく走ると、時々寄る書店の看板が目に入った、
駐車場は比較的空いている、車は難なく入り込むことが出来た。
エンジンを切った、少しの間座席に座ったままぼっとしていた、
それにしても今のは 何だったのであろうか ?
所要のために友に電話を入れた・・・
「頭大丈夫か? このごろ脳梗塞が多いからな?」 友は頭の異変を
心配したのである、おもわず指を握り締めた、力が入る 心配ない。
幻想 ? あの世とこの世の橋渡し、幽体離脱、さまざまな想いが
脳裏をよぎった、現実と夢想、そして一番当てはまるのが冬の幻想!
雪が舞う、港町の船着場では、不思議な幻想を見ることがあったが
ここ当分そんな風景に遭遇したことはない、真夏の夜の幽霊とも違う
霧雨を蛍と勘違いする御仁に逢った事はない、私だけの体験談、うん!
一息つけて書店に足を踏み入れた・・・
前から気に留めていた書籍、外国要人の著作が目に入った、ある棚に
二冊並んでいた。
衝撃の幕開きはそこに来ていた。世界は、地球の未来は果たしてどう
なるのか、渾身の力作が私の常識を打ち破ることになる。