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行政書士

行政書士冥利に尽きる

「S先生にやってもらいたいのですがやってくれますか ?」
 ・・・ は忘れた頃にやってくる、

何ヶ月ぶりの電話だったか、一瞬頭がこんがらかった ?
県との協議、他市を股に駆けた調査を済ませて業者との調整段階の
推移を見守っていた私だったが、計画は頓挫、見送るであろうと
耳打ちされていた案件だったのである。

数億円の事業費が予想される大規模事業の案件である、
忘れた頃に、あきらめた頃に、突然の社長からの電話だった。

紹介いただいた企業が受注競争に敗れたことを知った瞬間でもあった、
受注したのは関西の大手、直接の工事関係は地元企業の下請け、
厳しい企業間競争の激烈を思い知らされる現実である。

いろんな思いは有るが経営者じきじきの申し出である、
お受けする旨お伝えした、条件は双方納得のいくものに落ち着いた。

電話の後、大きなため息が出た、
ともに現地確認等行動を共にした営業社員の身を慮ったのである。
しかたないか、社長とは数度の話し合いで紹介を受けた立場から余りに
近くなりすぎていた。

商談を済ませたばかりにかかって来た電話だった、夕暮れの喫茶店は
多数の来客でにぎわっていた、
外に出ると夕焼けが競争の激しさを表すように赤く染まっていた。

勝者と敗者、来るものが居れば去るものが居る、
「キツイな !」 大きな報酬の仕事である、社長直々名指しでの
指名である、喜ぶべきことなのに私の心は沈んでいる、

ともに歩いた営業社員の涙を思うからである、
「この仕事が取れたら結婚しなさいよ、待っている彼女にウェ-ディング
ドレスを着せてあげるんだよ、私が応援するから・・・」 と。

この約束を果たすことが出来なかった、
美酒を一緒に飲みたかった、しかし、約束は果たせなかった、辛いね。

個人の仕事では県内でも有数の大掛かりな許可案件である、
誇り高き仕事を請け負っても心からは喜べない、これが現実だものな !

就職の斡旋を頼まれている、本人を面接したばかりである、
経歴と特技、そして性格、たのしい話題で心をほぐしてあげた、

彼の進むべき道が見えてきた、その方向の知人に近日会う予定である、
就職にしても縁談にしても、我々はあくまでもお手伝い・・・
後は、本人のやる気と永続できる根性、会社に合わせる調和力 etc

世は、思うようには計れない、相手があってのものだね、
喜怒哀楽の文字が、行政書士の肩に重くのしかかる ?

「まあ、仕方ないか、心を切り替えよう ! A君 !」

夕焼けを背に受けてハンドルを切った、

行政書士冥利に尽きる 男の花道が目の前に開けていた。

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