雑談

東京ラブ・ストーリ- 田舎篇

手入れされた小さな公園は冷たい雨の中に静まり返っている、

樹々の葉っぱに雨の雫が真珠のように光っていて、やがて
地面に落ちて冬の訪れを知らしめる。「寒い !」

多忙になる午後の予定を控えて、ひと時の安息の中にいる私、
大事な用事が数件待っているのである。

携帯がなった・・・
「今、久万高原町から三坂峠を下っています、一時半には間に
合いそうです?」

カンチ=織田裕二 リカ=鈴木保奈美 の東京ラブストーリーの
舞台になったカンチの故郷、その町から早朝の仕事を終えて私の
目当ての次期社長が帰って来る。

サッカー第一の青春まっしぐら、高校時代はサッカー部主将
そして大学でも熱中し過ぎて単位不足に陥った好漢である。

家業を継いで、丁稚と社長業見習い中、家内の方の関係で親戚に
なった不思議な縁、「ハイッ! わかりました!」 礼儀と笑顔が
素晴らしい! 「おじさんが鍛えてやるよ!」

私が最も好む体育会系の男子である、 「押忍」
その彼と、昼一番に逢う、彼の釣書を受け取るために。

彼、祐一郎が帰ってくる間、私は公園に降る雨に想いを巡らせていた、
遥か二桁前の昔、私の取引先にその山間部から事務員として勤務する
優しい乙女がいた。

「S先生!S先生!」となついてくれて、何かと心配りの出来る女性
だった、たしかその会社の社員数名で忘年会を催して二次会はカラオケ
喫茶に繰りだしたことがあった。

少し酒の入った彼女もマイクを握って当時のアイドルの歌を唄った、
田舎育ちの素朴な女性で、ほんのりと頬を染めて唄ったその横顔は
去り逝く年の名残か、脳裏にいつまでも残って消えない。

私の紹介である男性と見合いをしたが、男性は又おとなしいタイプで
似たもの同士なのでどうかと思ったが彼女の方から丁重に辞退した。

見た目はおとなしいが芯のとおった彼女には頼りなかったかも知れない、
明けて春、「S先生、私 結婚することになりました」彼女からの報告
は突然だった。

彼女の花嫁姿を必ず見たいと決めていた私は社員と同じテ-ブルに座った、
花婿さんは国家公務員の実直そうな好青年だった、私には以前見合いした
男性と同じタイプの人のような気がした。

数年後、彼女の離婚が同僚社員からもたらされた「消息は分かりません?」
カンチとリカ ふたりと違って、学校の柱に落書きをすることはなかった。
一度で良いから逢って見たい、この目で彼女の今を確認したい ?

・・・

もしも、私の紹介した男性との見合いがまとまって結婚していたら、
今、山を下って私の元へ急ぐ祐一郎にとって彼女は、義理の伯母になって
いたのである。

運命の糸は些細な違いですれ違う永遠に結ばれない、これが縁と云うものの
不思議なのだろう ?

雨は依然として止まぬ、時刻が迫って来た、私は祐一郎の会社へハンドルを
切った。

♪ ラブ・ストーリーは突然に 小田和正

昼下がりの職場の喧騒が終わった頃、ある人を訪ねた、大事な釣書を携えて。

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