フットワーク M よ !
その男の闘いぶりは軽快なフットワークを伴って
相手を翻弄した、
18歳の高校生にしては大人びた闘いぶりに、私は
ある感慨にとらわれていた。
当時、さっそうと現れて一躍銀幕のスタートになる
ナイスガイ 石原裕次郎 その裕ちゃんの喧嘩のそれ
だった。
けして、強いパンチではないが、一瞬の間に数発連打の
出るパンチは、ずっと後に記憶に残る男優となる、映画
竜二の金子正次のスタイルである。
格闘技系の人間から見ると軟弱に見える喧嘩でしかない、
しかし、映画ではその方が見た目にはカッコいい !
本当は、名前はあげないが別の役者にそれらしき実力を
伴った形を見たものである。
その男、Mの喧嘩ぶりはカッコ良かった、
当時高校2年生の喧嘩だから可愛いものではあるが、その
時代にはそれなりに花があったのである。
ある時、Y校の上級生 ( 3年生 ) A に呼び止められた、
Mの華麗な立ち振る舞いが気に入らないと日頃不快感を
抱いていた3年生が柔道部で名前の知れ渡ったA に告げ口
したのである。
後年、口を聞く事になるA だったが、その高校で頭角を
現した男だけあって、爽やかな性格の人だった。
・・・・
さて、話を元に戻そう・・・
呼び止められた私たち 3人は、A の誘いに応じてM がA の
後について商店街の細い裏道に向かった。
喧嘩慣れしているのか、まだ、高校生程度の事なのか ?
先を歩くA が振り向きざま騙し討ちのパンチを見舞った !
それを予見していたM は、軽快なステップでかわした、
パンチを外されたAは、今度は得意の柔道の技でMの学生服
の衿を掴んだ、投げも不発、そして2人して地べたに倒れた。
ちょうど、その時荒々しい声を聞きつけた商店街の人に
2人は引き離された、たわいもない学生のケンカだが、
この件で、MにY校の三年生が多勢で向かってくる事になる。
ビーカンの坂道の通学路、6~7名ほどのY校三年強面メンバ-
が待ち伏せしていた、天気が良いのに傘を持っている ?
その隙間から刃物の一部が見える、素手の喧嘩じゃないのか ?
後から知る事になるのだがY校花の番長グループなのに刃物 ?
後年その内の何人かは私の店のお客として見えるようになった、
Aさんとは私と仲良しになるBさんの仲介で松山のスナックで
再会する、その時の話を持ち出すと、笑って恐縮しきりだった。
遠い日の青春の一ページである、
主人公のMは、高校卒業後東京で就職する、性格は簡単に変わる
ものではない、高校時代と違って花の東京は、男気ある性格に
東京の女性たちが放っておかなかった ?
ボクシングジムに通うMは、
当時、名前の売れた日本ランカーと肝胆合い照らす仲になる、
Mから聞いたランカーとの一場面をご紹介する・・・
「M よ! 下がって見とけよ!」 勿論、東京弁 ?
ランカーは相手に頭を下げて詫びを入れる、
「スミマセン スミマセン!」それで相手が許してくれれば世話は
ない、喧嘩など起きはしない ?
図に乗った相手のコワモテが殴る動作に入った !
頭を下げたランカーの右アッパーが相手の顎を捉えた、
これ一発である。 コワモテは地べたに大の字となった。
飲屋街での武勇伝の一コマは、ランカーの名前を出せば男なら
ほとんどの人が知っている、言わぬが花、男の花道である。
喧嘩と女、花のもて男は東京にも安住できなかった、小林旭では
ないが、 北へ帰ろう 北帰行 と北海道に渡る事になる。
私のMへのオマージュは、留まる事を知らない、 Mよ !