雨の降らない梅雨は自然も物憂げに喘いでいる、
朝の散歩に土手へ降りて見ると一匹の黒い雑種犬が
目に入った、
下方の河原で、小石を用心しながら歩いている、私は
声を掛けたが、犬の興味は前方下流に向いていた。
その方向150m前方に目をやると4匹の野良犬がこちらを
向いていた、一瞬イヤな予感がして、黒犬に目をやった。
4匹がけたたましく鳴きながらこちらに向かって駆け出した、
その時ようやく異変を感じた黒犬が、私がいる土手の上の
アスファルト道に駆け上がり、そのまま反対側の町道へ
駆け下りて行った、
必死の思いで逃げる様は自然界の掟の冷酷さを知らされる
思いである、
人間と同じで犬の世界にも一匹狼ならぬ一匹ワンちゃんが
いる、途中捨てられた飼い犬か、他所に居たのだが仲間の
捕獲その他の理由で他のテリトリーに迷い込んで来た逸れ
野良犬か ?
どちらにしても一人ぽっちは哀れな存在 !
友人知人のいない人間とその姿行動はよく似ている。
若い頃は、好き勝手のできる独り相撲もいいが ?
年を重ねるほどに、寂寥感に根ざした孤独は哀れになる。
特に人間の女性はね ?
生活力が備わって親兄弟の元気な内は左程寂しくはない、
それが、身内が亡くなって行く晩年になると、 見る方が
いたわしく成る程後ろ姿が惨めになる !
友達は、夫や子供、孫に囲まれて一家団欒をしている !
ひとり暮らしの食卓ほど、身につまされる淋しさはない。
「S君! あの時話してくれた男女の話、女の弱さ、家庭
のありがたさ! 今にして分ります、もう遅いけど・・・」
教育界で沢山の生徒を教え、人生訓も語ったであろう先輩
女史が帰郷の折、切々と私に語ってくれた。
私は、今にして思うのだが ?
人間は時として苦の道を選ぶ事も必要なのではないかと !
楽を選ぶ事で貴重な勉強の場を見逃して来たのではないか?
藪の中を脇目を振らず必死に逃げる黒い野良犬、明日の日の
私たちの姿でない事を願う、
時間は、些細な喜びに紛れて大切なものを捨てて行く、気が
つくのは、取り返しのつかない黄昏に至った時である。
自然界で必死に生きる小動物、樹々に鳴く小鳥達、河川に
徘徊する野良犬、捨て犬、木陰に身を潜める猫 !
人間の未来を暗示するように見えるのは私ひとりだけだろうか ?