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思い出

木洩れ陽に泣いた  日

寒のダム湖畔は、束の間の青空の下静まり返っていた。
陽光愛おしく、小鳥達の囀りも歓喜に震えている、
生きとし生けるもの太陽の恵みほど嬉しいことはない。

さざなみさえ遠慮がちにひと時の幸せを育んでいる、
薄緑がこれ程暖かく感じられるとは至福の時間がそこに。

午後のひととき、野暮用で山に分け入った、
檜の生い茂った保安林は木洩れ陽が差すかと思わせる
風情の中で、静寂を見せていた。

木漏れ日 「 木洩れ日」とも書く。

山の中腹に足を向けたあの日、そう10年ほど前のあの日、
悲しい知らせは届いた。

薄幸の女性が病院の一室で短い生涯を閉じた、

まだ若いその人は、たくさんの想いを胸に未練に引きずられて旅立ったのである。

闘病は悲しくも苦しいものだった。

死の知らせを聞いた私は、悲しみよりも耐え難い痛みからの開放に心ならずも安堵の吐息を漏らした。

胸に響く慟哭の辛さは、その後に長く引きずることになるが未練を残して旅立つ人に比べれば耐えられぬものではない。

山荘の畑仕事をしていた私は、ただ呆然と人の人生の儚さに胸打たれていた、砂を噛むような惜別の知らせなのである。

とりあえず下山することにした私は、保安林のヒノキ並木を下った、

木々の合間から差し込む光りの束、まるで劇場のスポットライトが当るように狭い農道を照射していた。

光りの中に土埃が混じって揺らめいているような不思議な情景、「木漏れ日」が、人の死を悼むように、沈痛な揺らぎを見せていた。

荘厳な木漏れ日も、見方を変えれば人間の魂が昇天するような錯覚に一瞬落ちいっていた。

「亡くなったのだ、苦しかったものな !」

あの日に見た木漏れ日、今年はまだ見ないけれど、その日が来れば再び過去と向き合うことになる。

生きたくても生きられない人、怨嗟の恨みを受けながら尚しぶとく悪を撒き散らす高位な人間達、人間界の不条理は拭えない。

木漏れ日 本来は、その荘厳さに感嘆する筈なのに、私にとっては野辺に見送る別れの舞台となってしまった。

「Sさん、人生って儚いものなのね! 何も悪いことしてないのに神様は許してくれない、天国ではどうなのでしょうね ?」

私は言葉も無かった・・・!俯いて目に涙を溜めて呟いた言葉を忘れることは出来ない・・・

女のために流す涙、男だって弱いもの、もう随分流したよ !

滂沱の涙 !

今度逢う時のうれし涙のために少しだけ残しているけどね。

山荘を囲む山肌の木々がしばれる冬からの開放を待ち焦がれている、

ひと時の転寝に、幻想を交えて白昼夢の世界が繰り広げられていた。

現実は、果たしてどうなのだろう !?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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