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人生

春一番  娘の幸せ

春一番、厳しかった凍れる冬がどうやら峠を越えて
松山地方に穏やかな春の日差しがやって来た、
椿さんを迎えると厳しい冬の軛から解き放たれる。

暑い陽射しが待っていてその後の実りの季節へと歩を
進める、日本の四季は他に類のない情緒を見せて繰り
返される。

昨夜は、突風が我が部屋の窓を叩いて泣きじゃくった、
「忘れないで !」

黄泉の国へ旅立った友人知人たちが、忘れ去られる
寂しさを恐れるように私の元に集まり訴えた、
寿命が来て旅立つ寸前にも、この世に未練を残した人、

女性なら花嫁衣装を一度は着たい、
そんな願いさえ奪われて、召された乙女もいた、
幼い子供を残して旅立つ人の涙ほど胸打つものはない。

人間は多くの出会いがあって同じ数ほどの別れが来る、
その繰り返しの中に命の尊さを教えられる、それが平均
的な人間の生命感になる。

母ひとり子ひとりの母娘がいた、
好きな人が現れて玉の輿寸前の場面が開かれようとして
いた、

その仲人役を仰せつかった私は旧知の当事者の女性と
打ち合わせをして自宅に伺った、

女ひとりの子育てほど辛いものはない特に娘を嫁がせる
時ほど肩身の狭いものはないと言う、私の叔母がそんな
境遇に置かれていた。

それを承知して心鎮めて伺ったのである、
母親の生き方ほど子供の幸不幸に影響するものはない、
母上とお会いするのはその時が初めてだったのである。

その町で尊敬される職業と家系、人格者の両親を持つ
後継息子、ふたりは静かに愛を育んでいた間柄なので
気持ちよくお受け頂くものと予想して出向いたのである。

事態は予想に反して急変した、

男性の両親その他への不満が憎悪の言葉で羅列され、
聞くに堪えないその暴言は、善意の第三者の私さえ辟易
するものだった。

側で控える娘は狼狽えるばかりで母を止めることさえ
出来なかった!

娘を片親で育てる苦労は、叔母を見ているから充分
理解できるが、その裏返しに意地をはる母親をなだめる
ことの出来なかった非力を後悔することになる ?

あれから随分月日が過ぎた、男は独身、女性は妻子ある
年の離れた男性の後妻に納まった、ふたりの幸不幸は
どうなのだろう ?

子供の幸せの前に、些細な行き違いなど我慢することは
出来なかったのか ?
子の幸せ、女の意地、天秤かけても分かるはずである。

娘さんは可愛い女性だっただけに私の心に残る悔いである。

 

 

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