思い出

嬉しさはやまびこにかえり  悲しみは雷雨に咆哮する

嬉しさはやまびこにかえり、悲しみは雷雨に咆哮す。

激しい雨が全身を打ち歯の根が合わぬほど青年は打ち萎れた、
全ての幸せが天に帰ったかのように希望はかき消えた。

あれは、あの日は、いつの事だったかさえ覚えてない、
かすかに記憶に残るのは・・・
夕暮れに鳴く蝉達が見守るように合唱を奏でていた。

蝉が鳴き、梢が揺れた夏の日の午後、夕立が村を孤立させた、
ひとり鎮守の杜に出向いた青年は石段に跪いて咽び泣いた。

その悲しみの向こうに青年の旅立ちが有ったのである、
しばらくして青年の姿は村から消えた !

村人に青年の向かった先は知る由もなかった、
消息が判るには数十年の歳月が必要だったのである。

彼は、北海道の地に立っていた、艱難辛苦、職人の道に
進んだ彼の孤独の旅は、果てしなく続くと思われたが
天は見放さなかったのである。

元々言葉少ない男だったが更に月日は男を寡黙にさせた、
北海道は彼に何を教えたのであろうか ?

ある夏の日の夜、仕事を早めに終えた彼は路地裏の屋台
に涼を求めた、ひとり手酌のビールの味は、捨てた故郷を
思い出させていた。

その時、近くの公園の方から女の悲鳴が上がった !
暖簾を分けてその方向を見た彼の目に、必死に抵抗し助け
を求める若き女性と立ち塞がる男2人の姿が目に入った。

男2人等、ボクシングジムに通っていた彼の敵ではなかった、
一瞬の間に男達は彼の足元に崩れ落ちた、
月末、勤め先から彼の姿が消えた、主人への詫び状を残して。

高校時代に下級生からその男気を称えられた名物番長M・H
晩年の彼を知る者はいない。

友人の手紙が彼の元に届くことはなかった。

嬉しさは山彦に返り、悲しみは雷雨に咆哮する。

男の最終章は、未だ掴めない。

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